
実際に研究に協力してくださった方々はもっと多くいるが、本書では8名の日本美術、輸出日本美術工芸品のエキスパート──、有田焼、薩摩焼、金工、刺繍、箱根寄木細工などの専門家が、ドルマバフチェ宮殿をはじめとするトルコ国立宮殿局所蔵の日本美術工芸品について、それぞれの関心から論じている(*)。
わたし自身は総論と、これらがなぜオスマン帝国にあるのか、オスマン帝国にとっての意味を論じた。ともすれば英語圏、欧米に偏りがちな「日本」受容の歴史研究だが、本書はそこにオスマン帝国という一味違った角度を提供した。
いわゆる「中東」のみならず、北アフリカ・東ヨーロッパ圏、カフカースも含んだオスマン帝国からの日本へのまなざしは、従来の日本研究へ陰影に富むニュアンスを加えるはずだ。
そしていま、研究は新たな展開を迎えつつある。わたしはエジプト・カイロのナイル河に浮かぶローダ島所在の近代宮殿、マニアル宮殿で、すべての所蔵品3万9000点を網羅的に調べる機会に恵まれた。日本関連の所蔵品を抽出し、日本趣味の諸相を調べるためである。
オスマン帝国の一地方から英国支配下の独立国として1952年まで続いた王政期のエジプトは、わたしには、1922年に滅亡したオスマン帝国の、「あったかもしれない未来」、あるいは双子の片割れに見える。
エジプトでもまた、イスタンブル、パリ、ロンドンをまたぐ、日本趣味/ジャポニスムが花開くのである。『オスマン帝国と日本趣味/ジャポニスム』が、複雑に絡まり合った文化の豊穣を読み解く鍵となるよう願っている。
ジラルデッリ青木美由紀(Miyuki Aoki Girardelli)
専門は美術史。文学博士。著書に『明治の建築家 伊東忠太 オスマン帝国をゆく』(ウェッジ)、『オスマンの宮殿へ吹く日本の風』(編著、国立宮殿出版局)。展覧会キュレーションやNHK BS「工芸の森 トプカプ宮殿」番組制作出演も行う。近刊に『オスマン帝国と日本趣味/ジャポニスム』(編著、思文閣)。
※本書は2013年度、2014年度サントリー文化財団「人文科学、社会科学に関する学際的グループ研究助成」の成果書籍です。
『オスマン帝国と日本趣味/ジャポニスム』
ジラルデッリ青木美由紀[編著]
思文閣出版[刊]
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ボスフォラス海峡を渡った明治日本の美――『オスマン帝国と日本趣味/ジャポニスム』(思文閣出版刊)出版記念トークイベント
19世紀末、ヨーロッパで広がったジャポニスムはイスタンブルにも及んだ。オスマン帝国の宮殿には、有田や薩摩の陶磁器、輸出刺繡、寄木細工など、明治日本の工芸品が数多く残されている。それらはどのように日本からオスマン帝国へ渡ったのか。『オスマン帝国と日本趣味/ジャポニスム』(思文閣出版)を手がかりに、編者のジラルデッリ青木美由紀氏と松原史氏が、その知られざる交流史を語る。
●日時:2026年4月25日(土)14時~(開場13時半)
●会場:丸善京都本店地下2階 エスカレーター横フリースペース
●定員:先着25名様
●参加条件:完全無料/予約制(書籍購入は参加条件ではありません)
●ご予約受付開始:2026年3月19日(木)11:00~
●予約/問い合わせ:電話(075-253-1599)または店頭(地下2階書籍レジカウンター)にて
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