
佐伯 なるほど。組織存続という側面からすると、華道には、家元という特徴的なシステムがありますね。家元制度の成立については、専門家の研究もありますが、他の芸道にも通じる日本の文化継承の根幹のひとつともなっていますね。
家元という存在があるからこそ芸道が続く面がある一方で、最近、学生から「新しい流派を興(おこ)していいのですか」と問われ、そういえば日本舞踊などには意外と新しい流派もあるなと考えさせられました。新しい流派の誕生についてはどうご覧になっていますか。
池坊 いけばなにも流派は多く、考え方の違いから新しい流派が生まれることもあります。もしかしたら茶道よりも多いかもしれませんが、それはいけばなが表現の幅を広く持つ文化芸術だからではないでしょうか。
佐伯 流派それぞれの学び方や特徴を生かしつつ、ときには「オール華道文化」で結束して日本文化の継承のために協力することも幅広い社会への普及につながりますね。様々な流派のお花が一同に会した万博の展示にも感銘をうけました。いけばなを学ぶお弟子さんの最近の傾向については、どうご覧になっていますか。
池坊 作品をつくる文化ですから、いけばなを学ぶ人はどうしても技術偏重になりがちです。しかし、組織を繁栄させるには、それだけでは難しいと思います。技術の高い人だけでなく、コミュニケーションや交渉に長けた人、数字に強い人など多様な人材がいてこそ、組織は強くなります。
これまで池坊は「個人の技術向上」に重きを置いてきた面がありますが、今後は同時に、組織全体をどう強くするか、どう継続するかという点にも向き合っていく必要があると思っています。
佐伯 芸術家は世間知らずともみられがちですが、そうではなく、社会性をもちながら、組織を支えるコミュニケーション能力や多様性を重視して文化を継承する。
これは社会のなかでの伝統文化の持続可能性を保証するのみならず、人間として自立して生きていく上でもとても基本的なことですね。研究だけの世間知らず、では、いまや学問の世界でもやっていけません(笑)。
池坊 これまで私は父の庇護のもとで生きてきたようなものですが、これからは違います。少子高齢化が進む社会の中で、従来の構造のままでは立ち行かない部分も出てきます。池坊の組織をもっと筋肉質にし、海外とも積極的に関わり、次世代の人たちが継続していける仕組みを考えなければなりません。
たとえば、高校生を対象とした「花の甲子園」や児童から学生を対象とした「インターネット花展」はその試みの一つですが、イベントをして満足するだけではなく、どうすれば継続してもらえるのかを深掘りする必要があります。池坊のリブランディングも念頭にあります。
佐伯 お花、お茶、お能など、日本の伝統文化のお稽古人口は残念ながら押しなべて減少傾向といわれています。そうした状況のなかで、日本文化の魅力をどう伝えていくか、難しい課題に向き合い、時代に即した継承のあり方を常に工夫し続けていらっしゃるのですね。
