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1年前[編集部注:2024年11月]、『アステイオン』101号に「コンプライアンスという『正論』」というエッセイを寄稿し、論文が先行文献の剽窃とみなされて大学を懲戒解雇されてしまった友人の話を取り上げた。
近年多くの分野で「コンプライアンス」の遵守が求められ、研究の分野でも、資料の不適切な使い方や典拠の不記載などが厳しく戒められるようになった。
ところが今度は逆に、一つの基準を杓子定規に適用するような過剰な拡大解釈などで、正当なやり方までがクロ判定されるようなことが起こっている実態を広く知ってもらうためだった。そうしたところ、かつて勤務していた大学で同僚だった歴史学者(中国史)からメールをいただいた。
彼もまた「研究不正」を認定されてしまい、科学研究費の返還や出版物の回収を求められることになったというのだが(その後さらに名誉教授の称号も剝奪されてしまった)、さらにやりとりするなかで、経緯がつぶさにわかってきた。一言で言えば以下のような事案である。
他の研究者が骨董市で入手した資料について相談され、預かっていたところ、たまたまそれが自らの編集する論集に寄稿する別の研究者の研究に有用であることがわかり、それを提供し使ってもらった。それが元の資料の持ち主に無断盗用として訴えられ、「研究不正」を審査する大学の委員会でクロ判定されることになったという。
もちろん、預かっていた資料を無断で他の研究者にまた貸しした行為は軽率で、道義的に問題とする向きもあろう。しかしそれが「盗用」で「研究不正」にあたるかというのは別の話である。
この資料を使った研究者の論文にも、資料の所有者を明示し、あわせて謝意を表する旨の註釈が付けられており、他人の研究成果を自分のものにみせかける不正行為には思えないのだ。
文部科学省は「研究活動における不正行為への対応等に関するガイドライン」(2014年)を制定しており、そこでは「盗用」は、「他の研究者のアイディア、分析・解析方法、データ、研究結果、論文又は用語を当該研究者の了解又は適切な表示なく流用すること」と規定されている。
今回のケースはそのうちの「データ」の無断流用にあたるとされたのだが、この「ガイドライン」をよく読むと、そこでの「データ」は、資料全般を指す日常用語的な概念ではなく、研究者が何らかの操作や解釈を加えたりすることによって得た成果を指す語であり、ナマの資料自体を指す語である「研究資料」とは明確に区別して用いられている。
そうであれば、そのようなナマの資料(「研究資料」)の使用にこの規定を適用して「データ」の「盗用」とするのはそもそもカテゴリー・ミステイクなのではないかという疑問がわく。
