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日本社会

「本屋の消滅」から「偏差値史上主義」まで...「書店員が選ぶノンフィクション大賞」が映し出した、日本の現実とは?

2025年11月19日(水)11時00分
中丸美繪(ノンフィクション作家)

さて、図書館の形態の変化はGHQによるものだったが、同様に、戦後GHQによって改革されたのが6・3・3の教育制度である。

すでに公立高校の授業料は無償化され、私立でも公立高の授業料相当が支払われ、高校教育は国家丸抱えの義務教育と言っていいが、そんな高校生の1割が通っているのが通信制高校だ。主に自宅学習によって単位を修得し、学校によって面接があったり試験があったりするが、入学すれば高校卒業証書を手にできる。

もともとは不登校の受け皿として始まったのだが、ここ20年間で通信制は倍増して生徒は全国で35万人、高校生の1割が通うようになっている。多様性を重んじるというので、知人の家庭でも通信制学校に通っている例が数件ある。そうして大学に進むのだが、安穏とはしていられない。

25年度版自殺対策白書によると、全年齢では自殺者が減少しているのに、小中高生の自殺は過去最多で、15歳〜29歳の自殺者は3000人を超えて高止まりである。

また2015年以降、大学生は男女ともに21歳で亡くなるケースが多く、原因動機分析では、進路に関する悩みを抱えているのだという。大学生の就職率は98パーセントにも上るのにである。これはどういうことなのか。

「書店員が選ぶノンフィクション大賞」候補作には『学歴狂の詩』という、偏差値至上主義を描いた書籍もあった。中学受験に始まり大学受験までの「学歴ノンフィクション」と帯には謳われ、著者佐川恭一の筆致は軽妙で、諧謔(かいぎゃく)と笑いの精神で結末まで疾走する。

自らを滋賀県の<田舎の神童>、京大卒のエリートでありながら「転落した」と設定し、この神童が、通塾や京大で出会った<天才><東大文一原理主義者>や<神戸大学志望を貫いた「足るを知る男」>らとの異形の青春が描かれる。

「受験とは、逃げ場のない戦い」で、同じ問題を同じ条件で解いて敗北すれば、敗北でしかない場所のあり様が活き活きと描かれる。一方で、こんな戦場で戦える青少年は限定的だと痛感していくことにもなる。

人生は長い。その長い人生は、学歴で決するのだろうか。

敗戦前の日本は、旧制中学と実業学校の複線型の進学システムを導入していた。ところが、戦後、教育の機会均等が重視されアメリカ主導で単線型に変わった。

一方、同じ敗戦国ドイツは、教育制度については妥協しなかったことを、約3年間の在住で知った。9年間の義務教育後、生徒は成績と適正に応じて、大学入学資格取得をめざす学校に行くのか、それとも会社勤務のための事務職、あるいは専門職を目指すのか、それによって複数の進路に分かれていく。

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