このような背景の中で、リベラル・モダニストたちは実に多様な論点を提示した。開いた社会、柔構造社会、メタボリズム、新中間大衆、柔らかい個人主義、未来学、田園都市と家族、教育の自由化、政治的意味空間の合理化...。
これらは、国家や階級という重い枠を取り外すことによってはじめて見えてくる、繊細な問題意識に支えられていた。中でも「柔らかさ」は一つのキーワードであった。
ただし、それが旧来の硬直した思考様式を乗り越えるべき将来のビジョンとして重視されるのか、それとも捉えどころのない不定形の敵としての現代社会の難題を指し示すのかは、論者によって異なる。
以上の議論は、戦後日本が「達成」してきた成果――それが政治制度の基本型であれ、経済的繁栄であれ、日米安保体制であれ――を基本的に肯定し、その上でより「自由な社会」を構想しようとする試みであった。
だがそれは、より多くの人々の参加を通じて「平等な社会」を具現しようとした、同時代の市民運動の理想とはなかなか接合する機会を持たなかった。それはなぜだろうか。そしてそのような歴史は、現代日本の磁場の中で「リベラル」が占める位相にどのような影響を及ぼしたのか。
リベラルの危機が唱えられる今日、日本型リベラルの内実を問い直す上で、検討に値する課題である。
趙 星銀(Sungeun Cho)
明治学院大学国際学部准教授。博士(法学、東京大学)。専門は戦後日本の政治思想史。主な著書に『「大衆」と「市民」の戦後思想――藤田省三と松下圭一』(岩波書店、2017年)など。
※本書は2021年度サントリー文化財団研究助成「学問の未来を拓く」 の成果書籍です。
『<やわらかい近代>の日本――リベラル・モダニストたちの肖像』
待鳥聡史・宇野重規[編]
弘文堂[刊]
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