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文学

アルジェリアの村人となったドイツ人の父の「過去」と2人の兄弟の物語──「いま」を問う小説の役割

2023年04月26日(水)08時06分
鵜戸 聡(明治大学国際日本学部専任准教授)

2001年9月11日に「同時多発テロ」の標的となったアメリカが「テロとの戦い」を叫んでアフガニスタンやイラクに性急な戦争を仕掛けたのは周知の通りである。

しかし、これに先んじてイスラーム過激派との内戦に陥ったのが90年代のアルジェリアだった。1830年以来フランスの支配を被った同国は、7年半にわたる凄絶な解放戦争を経て1962年に独立を達成した。

社会主義体制を採った新生アルジェリアでは、独立を戦い獲った聖戦士たち(ムジャーヒディーン)があらゆる権益を独占する一方、急激な都市化や人口爆発によるインフラの不足など、激しい変化に晒された社会の問題を政府が解決できずにいた。

国際的にも、世俗的なアラブ主義の理想は中東戦争の敗北で色褪せ、代わってイスラーム主義的な義勇兵がソ連軍の侵攻を機にアフガニスタンに集っていた。

やがてベルリンの壁が崩れ、社会主義諸国が次々と体制転換するなかで、アルジェリアもまた一党独裁を廃して選挙の実施に踏み切った。

その結果、すでに草の根運動を通じて勢力を拡大していたイスラーム主義政党が大勝利を収めることになり、危機感を覚えた国軍が選挙結果を無効としたため、双方の間で血みどろの内戦が戦われることになった。

「暗黒の十年」と呼ばれるアルジェリアの90年代である。知識人の暗殺が始まり、最終的には村がまるごと皆殺しに遭うような無差別の暴力が吹き荒れ、十数万人の犠牲者を出した。

このように歴史的な暴力が再び極点に達したアルジェリアで、ブアレム・サンサールは作家となった。フランス統治下の1949年に生まれ、13歳で独立を迎えたサンサールは、新生国家のエリートとして教育を受け長らく公職にあった。

その彼が、悲惨な現実を前に筆を執り、最初の小説『蛮人の誓い』をパリで上梓したのは1999年、50歳の時である。爾来、アルジェリアの理想と蹉跌を知悉する知識人作家として健筆を奮ってきた。解放戦争中も独立以後も少なからぬ作家が国を離れたが、とりわけ90年代には多くの知識人たちが亡命せねばならなかった。

高名な作家ターハル・ジャウートらの暗殺が内外に大きな衝撃を与えた一方、ラシード・ブージェドラのように、イスラーム主義者からの死刑宣告にもかかわらず国に残った人も少数あった(後者の邦訳に『離縁』『ジブラルタルの征服』がある)。

サンサールは内戦が収束するなかでデビューした作家だが、彼も、また先述のダーウドも、体制やイスラーム主義への批判のために脅迫を受けながらも、アルジェリア内部に留まり続けている。

そのサンサールの主著『ドイツ人の村──シラー兄弟の日記』(2008)は、2人の兄弟の日記の形をとった長編小説で、物語は1996年10月の弟マルリクの日記で始まる。

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