アステイオン

アステイオン・トーク

経済学者とジャーナリストが議論「アカデミズムとジャーナリズムのあり方は?」

2022年09月09日(金)08時06分
井伊雅子+山脇岳志+土居丈朗 構成:井上ちひろ(東京大学大学院経済学研究科博士課程)

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左より土居丈朗氏(慶應義塾大学経済学部教授、アステイオン編集委員)、井伊雅子氏(一橋大学国際・公共政策大学院教授)、山脇岳志氏(スマートニュース メディア研究所 所長)

山脇 ここに掲載されているご論考はすべて、興味深く拝読しました。学者と世間のギャップについて、新たな発見がある面白い論考が多いですね。ただ、若干の注文をつけさせていただくなら、インフレ率をめぐる議論も取り上げていただきたかったですね。経済学者と世間とのギャップという意味では、象徴的だと思うからです。

主流派の経済学者は、インフレ率について安定的に2%は必要だという意見が強いと思いますが、このところの世の中の動向をみると、欧米に比べてかなり低いインフレであっても、相当ネガティブな世論の反応となっていて、内閣支持率が下落する要因にもなっているように思います。この点の経済学者と世間とのギャップをどう考えるべきなのか、読みたかったと思います。

土居 経済学の中でも、インフレ率をめぐる議論は共通認識になっていません。インフレを鎮静化する必要性についてはあまり対立していませんが、例えばガソリンの値段が上がる中で補助金を出すことは物価対策になっているかという点については、経済学者の中でも意見が分かれるところです。

購買力を維持するため補助金を出すのはいいという考え方もあれば、補助金によってガソリンをたくさん買えると、物価上昇をあおるという考え方もあります。

問題は、なぜか経済学者が対立しているときばかり注目され、その対立した片方の意見が世の中でフィーチャーされがちだということです。逆に経済学者が共通して意見が一致している場合には、世間とは感覚がずれていると言われてしまいます。

こういうところを何とか克服したいと思い、今回の特集を企画しました。次の機会には経済学者の意見が必ずしも一致していない話を取り上げたいと思います。

今日は、世間の信頼と共感を勝ち取っていくことに関して、アカデミズムとメディアが一緒に考えていかなくてはならないという経済学に留まらない非常に広い話まで発展して議論を深めることができました。「アステイオン・トーク」にご参加いただき、本当にどうもありがとうございました。


井伊雅子(Masako Ii)
一橋大学国際・公共政策大学院教授。1963年生まれ。国際基督教大学教養学部卒業。ウィスコンシン大学経済学研究科修了(Ph.D)。世界銀行、横浜国立大学経済学部を経て、現職。専門は医療経済学、医療政策。主な著書に『アジアの医療保障制度』(東京大学出版会)、『新医療経済学』(共著、日本評論社)など。

山脇岳志(Takeshi Yamawaki)
スマートニュース メディア研究所 所長、京都大学経営管理大学院特命教授。1964年生まれ。京都大学法学部卒業。朝日新聞社で、経済部記者、オックスフォード大学客員研究員、ワシントン特派員、論説委員、GLOBE編集長、アメリカ総局長などを歴任。2020年スマートニュースに転職し、2022年より現職。著書に『日本銀行の深層』(講談社文庫)、『現代アメリカ政治とメディア』(編著、東洋経済新報社)、『メディアリテラシー』(編著、時事通信社)などがある。

土居丈朗(Takero Doi)
慶應義塾大学経済学部教授、アステイオン編集委員。1970 年生まれ。大阪大学卒業、東京大学大学院博士課程修了。博士(経済学)。東京大学社会科学研究所助手、慶應義塾大学助教授等を経て、現職。専門は財政学、経済政策論など。著書に『地方債改革の経済学』(日本経済新聞出版社、日経・経済図書文化賞、サントリー学芸賞受賞)、『入門財政学(第2版)』 (日本評論社)、『入門公共経済学(第2版)』(日本評論社)、『平成の経済政策はどう決められたか』(中央公論新社)などがある。



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  『アステイオン 96
 特集「経済学の常識、世間の常識」
  公益財団法人サントリー文化財団
  アステイオン編集委員会 編
  CCCメディアハウス

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