アステイオン

外交

「悪役」国家の語り口

2020年09月16日(水)
中村起一郎(都市出版「外交」編集長)

例えば、現在の中東国際政治の焦点であるイラン。イランに対するトランプ政権の振る舞いは理不尽だとしても、それだけでイランの現在の窮状を説明できるのか。

アリー・アルフォネ「最高指導者と革命防衛隊――イランを支配しているのは誰か?」は、革命防衛隊というイラン独特の軍事組織が、革命初期において米国を通じていた国軍将校、ソ連と通じていた左派組織を排除するなかで公式化され、イラン・イラク戦争で組織的に拡大し、90年代以降は経済権力としても台頭していく一方、国内の反政府運動を弾圧して時の政権に貸しをつくることで、イラン政治の中枢に位置するようになった過程を描いている。その延長として、現在のロウハーニー政権と革命防衛隊の対立を、従来のシーア派聖職者対軍事組織の対立に加え、ハーメネイー師の後継争いの文脈で考察するのは、宗教国家イランを特殊視せず、権威主義体制における権力闘争の一形態として捉えることで、とても見通しがよい分析になっている。報道でよくみる「改革派のロウハーニー政権」対「保守派のハーメネイー師・革命防衛隊」という図式よりも、ずっとリアルだ。おそらく革命防衛隊内部にも世代や路線の対立があり、矛盾があるだろう。イラン政治を、個々の特殊イラン的な要因を踏まえた上で、普遍的な言葉で考察する手際が心地よい。

同様の心地よさは、シャーバン・カルダシュ「戦略的自律性の追求――アラブの春の挫折とトルコ外交」にも感じた。起点となるのは、2010年末から北アフリカ・中東諸国に広がった「アラブの春」である。当時、政教分離と民主主義を実現し、安定的に政治が運営されていたトルコは、革命後のアラブ諸国の新政権がめざす「モデル国家」の感があった。カルダシュ氏は「アラブの春」を、国民が政治的転換を求める第一段階から、国家の安全保障が前面に出た第二段階へと中東秩序が大きく変容するなかで、それに対応したトルコ外交の展開を読み解く。

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