アステイオン

国際政治

「リベラルな国際秩序」論の盲点を突く

2020年07月10日(金)
赤阪清隆(公益財団法人フォーリン・プレスセンター理事長)

「権威主義への曲がり角?-反グローバリゼーションに揺れるEU」(岩間陽子)も、コロナ危機以前から静かに進行していた反グローバリゼーションの波を、ハンガリー及びポーランドで頭角を現したポピュリスト政党による「非リベラルな民主主義」に観取している。両国はEU加盟国でありながら、難民の受け入れ問題や司法制度改革などで非リベラルな政策をとってEUと対立している。また、非リベラルな民主主義は、旧共産圏にとどまらず、オーストリアや、イタリアなどの西側諸国にも広がりつつあり、市民権を得つつある。さらに、コロナ危機によって、国家がカムバックを果たし、EUはほとんど存在感がない。このような欧州統合の頓挫と経済危機は、グローバリゼーションの危機であり、権威主義に傾斜する国が増えることを警戒すべきと、岩間氏は警鐘を鳴らす。

確かに、EU拡大こそ、モノ、ヒト、サービス、カネが加速度的に国境をまたぐグローバリゼーションの象徴的な事象であった。岩間氏が伝える反グローバリゼーションの大波にさらされ、ナショナルな歴史観と強い排外主義に見舞われているEUの姿は、共通の普遍的な価値観とガバナンス体制の整備によってグローバルな秩序を構築しようとする国際的な試みが現在直面している危機的状況を如実に映し出すものである。

習近平の社会思想学習」(近藤大介)は、中国式社会主義市場経済というチャイナ・モデルが21世紀の人類の新たな国家統治システムの規範になるという「仮説」が、新型コロナウイルス騒動によって分が悪くなってきているという。しかし、その後、コロナ危機を迅速に抑え込むことに成功した中国は、その権威主義的ではあるが効果的な素早い対応を自画自賛する状況に変化している。それでも、果たして中国がこのコロナ危機を経て「勝者」となり、前述の「仮説」が立証されたと言える状況になるのかどうかは、目下の米国その他の激しい中国批判もあって、まだ予断を許さない。コロナ危機の残した歴史的教訓については、号を改めて識者の意見を聞いてみたいと思う。

最後に、現在の世界が「まだら状の秩序」なのは、国連やその他の国際機関などを含むグローバルなガバナンス体制への信頼が揺らいでいることにも一因がある。これは多国間主義を軽視するトランプ政権のみならず、あえて火中の栗を拾おうとしない日本を含む他の国々にも大きな責任がある。最近のWTOやWHOをめぐる状況は風雲急を告げており、本誌が今後この問題の核心を突く議論を触発することを期待したい。(了)

赤阪 清隆(あかさか きよたか)
公益財団法人フォーリン・プレスセンター理事長


『アステイオン92』
 サントリー文化財団・アステイオン編集委員会 編
 CCCメディアハウス 発行

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