アステイオン

社会

緩やかな共同体の可能性

2019年11月14日(木)
黒川博文(兵庫県立大学国際商経学部講師・2015年度 鳥井フェロー)

HONG VO-iStock.

いつの時代も、不確実な将来に対して漠然とした不安を抱きながら、人間は生きている。これからの時代、ICTやAIなどの技術進歩によって、仕事や働き方が変わっていくのだろうが、どのように適応していけばよいのだろうか。頻発する自然災害に対する備えや、発生したときの対処はどうすればよいのだろうか。様々な問題や変化があることはわかっているものの、「これからの時代をどう生きるか」と漠然と聞かれても、なかなか答えを出すことは難しい。

そんな中、「これからの時代をどう生きるか―宗教×労働×その日暮らし」というテーマで学芸ライヴが開催された。ファシリテーターを務めた経済学者の大竹文雄氏は、宗教社会学者の稲場圭信氏、労働法学者の大内伸哉氏、文化人類学者の小川さやか氏という専門がばらばらな3名のゲストを招いた。副題はそれぞれのゲストの研究テーマを表しており、これからの時代の生き方を考えていく上では重要なキーワードであると大竹氏は考え、この3名のゲストを呼ばれたそうだ。いったい、この3名の話がどのようにつながっていくのであろうか。

「宗教」というのは1つの共同体で、大竹氏はこれからの時代、共同体を通じた取引が重要になってくるのではないかと考えている。そこで、共同体や利他主義をテーマに、現場に足を運び、宗教施設を通じて防災ネットワークの構築を目指している稲場氏をゲストとして迎えた。東日本大震災前は無縁社会と言われるように、地縁や血縁の弱体化により共助がない社会になっていたと指摘した。ところが、東日本大震災という大きな自然災害に対して助かったという経験から、家族の結びつきや生きていることのありがたみを考えるようになり、共感縁が誕生した。

東日本大震災のとき緊急避難所として役割を果たしたのが、お寺や神社といった宗教施設であった。旅人のユースホステルとして役割を果たしていた宗教施設がいつしか、そのような役割を果たさなくなっていた。宗教というと排他的なイメージがあるが、かつて旅人を受け入れていたように、人々を寛容に受け入れる遺伝子が日本の宗教施設にはあったため、緊急避難所としての機能したのであろう。宗教施設はコンビニよりも多くの数が各地域に存在している。古くからある宗教資源に新しい防災科学技術を活用することで、災害へ備る可能性を稲場氏は探っている。

生きていくためには「労働」をしなければならないが、これからの時代はAIやICTの技術によって仕事が変わってくる中で、AI時代の労働を考えることが重要だと大竹氏は考え、AI時代の労働を研究テーマにしている大内氏をもう一人のゲストとして迎えた。そもそも労働とは、人間が社会共同体を作り上げた当初、共同体の中で生き延びるために、それぞれができることをやるというものであったことから話を始めた。得意なものは自分でやるけれど、不得意なものは他人にやってもらい、お互いに持ちつ持たれつの互恵的な無償労働であった。時代が経るにつれて、労働は奴隷や農奴が行うものとなり、次第に労働というモノを取引する契約へと変化していった。そうした中で、従属的労働者を守るために労働法が誕生した。

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