アステイオン

社会

緩やかな共同体の可能性

2019年11月14日(木)
黒川博文(兵庫県立大学国際商経学部講師・2015年度 鳥井フェロー)

しかし、これからの時代は技術革新の影響で、企業に支配されながら働くという従属的な働き方に変化が生じて、自己決定のための労働へと変化し、経済的自立のための協力が重要になっていく。同時に、従属労働者を保護する労働法はなくなり、新しい働き方に対応した労働法の制定が必要となってくる。さらに時代は進むと、生きていく上で必要なものはAIやロボットがやってくれて、人間が働く必要がなくなる時代がやってくるかもしれない。そういう風になっていくと、お金を得るために働くということはなくなり、生きていくために必要な共同体の中で生活していくうえで、互恵的な無償労働のような労働に戻っていくのかもしれないと大内氏は考える。

「その日暮らし」は、緩い信頼関係の中で生きているタンザニア人を研究している小川氏の代表作に由来するものである。ICTをうまく活用している零細独立自営業者を対象に研究していることから、これからの時代の生き方にヒントが得られるだろうと、大竹氏は小川氏を3人目のゲストとして迎えた。タンザニア人は生計手段を多様化しており、同時に複数の仕事をしながらつねに新たな機会を模索している。新たな仕事に失敗したら撤退し、またチャレンジしてと、そういった繰り返しの中でも何とか生きていける社会になっているそうだ。

路上商人をしているタンザニア人を観察していると、余裕のありそうな人には原価よりも高く売り、余裕がないものには原価よりも安く売るなどして、本人たちは意識せずに相互扶助の関係が市場の取引の中に組み込まれていることがわかったそうだ。そこでは、だまされたかもしれないけど、それはもしかしたら誰かを助けたことになるかもしれないというある種の信念をうみだす仕組みなのかもしれない。一方で、一儲けを目指して香港に渡ったタンザニア人を観察すると、シェアリング経済や地下経済を通じてセーフティーネットを作っていることを発見した。彼らは独自の組合を作っているが、メンバー同士の信頼ときちんとした応答を期待する市民社会組織とは異なり、何かあったときに応答できる人が応答するといったプラットフォーム型の組合活動をしている。プラットフォーム型の組織は、私がある人を助けてもその人は私を助けないかもしれないけど、その人は別の誰かを助けるだろうし、他の誰かが私を助けてくれるという関係が築き上げられている。その組織の中の人々は、このような信念を持つことで、非常に緩い関係の中でも多様な人々を受け入れることができ、一つの共同体の中で様々な知恵や知識を得ることができる。直接互恵的な関係ではなく、ある種の間接互恵的な関係である。どちらかの関係性が優れているというわけではなく、状況に応じた関係性を構築していくことが重要になるのではないかと小川氏は考えている。

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