本書のあとがきでも書いたことだが、われわれの議論が最終段階をむかえようとしていたとき、佐々木さんがしみじみとこう口にした。「ぼくにとってもっとも新鮮だったのは、当時の日本人がいかに第一次世界大戦の現状を知らなかったかということです」、と。あるいは、山室さんは研究会を終えたいま、「第四人称」などという特異な言葉もそうだが、大正期のキーワードでもあった「民・声」「公・衆」「生・存」など、諸「可能性」の挑文(あやとり)を思想史研究の方法へと鍛え上げるべく「思詞学」というプロジェクトを立ち上げようとしている。メンバーみないい歳をしながら、まだ始点に立ったばかりといった思いを禁じえないでいる。
鷲田 清一(わしだ きよかず)
京都市立芸術大学学長
可能性としての「日本」研究会代表
vol.100
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