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日本政治

「2015年安保」と開かれた討論

2015年11月30日(月)
尾原宏之(立教大学兼任講師・ 2014年度サントリー文化財団鳥井フェロー)

LumiNola-iStock.

10月21日、東京・丸の内の銀行倶楽部で開かれたサントリー文化財団フォーラムは、安全保障関連法の成立から1ヶ月という時宜にかなった内容となった。講師は、政治学者・五野井郁夫とメディア史研究者・佐藤卓己である。3.11以後の新しいタイプの社会運動に参与しつつ発言してきた五野井と、メディアを舞台にした “反安保狂想曲” をやや冷ややかな目で分析してきた佐藤。安保法案をめぐる言論と運動を中間総括するのにふさわしい組み合わせであるように思われた。

五野井の講演「院内と院外の政治――参加民主主義のグローバルな展開」は、「アラブの春」、ニューヨークのオキュパイ運動、香港の「雨傘革命」、そしてSEALDsに象徴される日本の「2015年安保」など、世界に広がる人権と民主主義の運動を構造的に分析したものである。

特に、参加民主主義の担い手たちの雑多な思想やスタイルの分析は、今日の日本の社会運動を見る上でも有益だった。リベラル・デモクラシーやアナキズムといった古典的な枠組に加え、状況主義、クラブ・カルチャー、カリフォルニアン・イデオロギーなどの思潮にも言及がなされた。カリフォルニアン・イデオロギーとは、反権威、自由の尊重という点でヒッピーとハッカーの思想が混合したものと解されているが、新自由主義と親和的な側面もある。実際、日本の新しい運動でも、反資本主義的な人々と新自由主義的な人々が自然に共存している光景に出くわすことがある。旧来の新左翼から見れば単なる野合だろうが、このような思想の雑居傾向が運動の敷居を低くし、音楽やアートなどで新しい運動を彩る人材を招き寄せていることに改めて気づかされた。

五野井は、新しい運動が政府を変えるだけでなく、政府を取り巻く文化や社会を変革することに注目する。また、その「院外」の運動がやがて「院内」の政治を動かすこと、短期的には今回の反安保運動が2016年参議院選挙に向けた野党結集の原動力になりうることを説く。

たしかに今回の反安保運動は幅広い世代にインパクトを与え、発言や行動を促す大きな契機となった。だが、政治文化を変え、「院内」の政治に有効に働きかけるには、運動に加えて別の回路も必要になるように思われる。

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