もっとも、貿易において特定国が差別されることは決して珍しいことではない。今年に入っても、ロシアのウクライナ侵攻が起きたのち、アメリカやその同盟国がロシアに対する経済制裁を発動し、ロシアへの最恵国待遇を取り消した。ロシアもGATT締約国なので、本来は最恵国待遇を受けるべきである。ただ、GATT第21条は、加盟国が国際の平和及び安全の維持のために国際連合憲章に基づいて一般最恵国待遇の原則から外れることを許容している。要するに、国連の安全保障理事会で侵略国に対する経済制裁を決定した場合には、その国に対する最恵国待遇を取り消して貿易制限を行っていいことになっている(中川淳司『WTO』岩波新書、2013年)。

ただ、今回のロシアに対する経済制裁は国連の安保理決議に基づくものではない。それはロシアが安保理常任理事国なので拒否権を行使できるためであるが、それでも普通の国であれば経済制裁を科されるようなことをロシアがやらかしている以上、最恵国待遇を取り消されてもしょうがないと思う。

合法的な中国外しだったTPP

一方、中国も数年以内に台湾に武力統一を仕掛けるぞ、とアメリカの高級将校たちがさんざん煽っている。しかし、現時点でどこかと戦争しているわけではない。その中国との貿易を制限するような経済枠組みができるということは、戦争が起きる前から中国を交戦国扱いするようなものであり、IPEF参加国と中国との関係が悪くなることは必定である。

もっとも、GATTのもとで合法的に中国外しをする方法はある。それは中国を入れない自由貿易協定を結ぶことである。自由貿易協定は、それに加わる国にだけ関税を撤廃し、域外のGATT加盟国に対しては撤廃しないので、すべての加盟国に最恵国待遇を与えるというGATTの原則から外れる。しかし、GATT第24条は、自由貿易協定が域外の国に対する貿易障壁を締結以前より高めないこと、協定の加盟国の間では実質的にすべての貿易について関税やその他の貿易制限を撤廃することを条件として自由貿易協定を結ぶことを認めている。

つまり、IPEFがもし自由貿易協定になるのであればGATT違反にはならない。実際、アメリカがオバマ政権時代に環太平洋パートナーシップ協定(TPP)を推進したのは、GATTと整合的な中国外しの枠組みを作るためだった。ところがトランプ政権時代にそのTPPからアメリカが自分から抜けてしまった。

インド洋の藻屑と消えるか
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