すなわち、商品を注文した買い手が支払った代金をアリババの方でいったん預かり、商品が買い手のもとに到着したら、代金を売り手に渡す、というのが「保証取引」である。

やがて、商品の売買のたびに銀行からアリババに代金を出したり戻したりするのではなく、売り手も買い手もアリババにバーチャルな口座を開いてそこでお金をやりとりするようになった。

多数の人々がアリババ上に口座を持つようになると、今度はそれを使って電子商取引だけでなく、公共料金の支払い、鉄道や飛行機のチケットの購入、友達への送金などさまざまな支払ができるようになれば便利ではないか、と考えた。これが「支付宝(アリペイ)」の始まりである。

ただ、そうした「第三者決済業務」は政府(中国人民銀行)の規制の対象である。ソフトバンクなどを大株主とする外資系企業であるアリババにはそうした業務は許可されない可能性があった。そこで、2010年にアリババの決済業務がアリババの子会社からマーらが出資する純中国資本の企業に移された。これがアント・グループの始まりである。

ほどなくして中国もスマートフォン(スマホ)の時代になり、アリペイの主な舞台はパソコンからスマホに移った。2013年にアリババはスマホでの電子商取引の拡大に力を集中する方針を定め、アントもスマホによってネット上の商品だけでなく、街中でなんでも買えて、現金を持ち歩かなくても済むようにすることを目指すようになった。そのためのカギとなった技術がQRコードである。

ICカードを超えたQRコード

QRコードはもともと日本のデンソーが自動車部品の箱を管理するために開発したものである。デンソーはそれをイベントのチケットにも応用できると考えていたが、よもや現金の授受に使われるとは思っていなかっただろう。QRコードを現金決済に使うことを世界で最初に思いついたのはアントのようだが、実際に広く使い始めたのはテンセントの方が一足早く、アントも同じ2013年にQRコードの普及に乗りだした。

当時、電子マネー技術の本命だと思われていたのはICカードで、日本ではSuicaやおサイフケータイなどに使われている。中国政府も当時はICカードが主流になると考えていて、アントに対してQRコードは危険だから使用を停止するよう2014年に命じた。

しかし、ICカードは代金を受け取る側でリーダー・ライターを購入しなければならないし、スマホにICカードを搭載する必要があるなどQRコードに比べて導入コストが高い。零細企業ではこの導入コストがネックとなるため、その普及には限界がある。そのため、中国では政府が禁止している間もQRコードの利用が続き、結局2年後に政府が折れて、利用を認可した。

零細企業への与信業務に進出