2016年から、鉄鋼業と石炭産業の生産能力過剰を段階的に解消していくことが重要な政策課題になり、過剰解消のショックを和らげるための補助金も提供されることになりました。ところが、中国政府は何を血迷ったか、2016年3月になって石炭の生産そのものを制限する政策を打ち出しました。2015年までは炭鉱の生産能力は年間330日稼働することを前提に計算されていたのを、土日と祝日はすべて稼働を停止するという計算に基づき、年間276日のみ稼働を認めることとしました。そのため、各炭鉱の生産が一律に前年の84%(=276/330)に削減されることになったのです。

 この政策が徹底された結果、2016年3月から実際に大幅な減産が行われ、2016年1~9月の石炭の生産量が前年比で10.5%減少しました。石炭の供給が減った結果、石炭価格が6月頃から急激に上昇しはじめ、石炭火力発電所での石炭のストックが20日分以下に落ち込んで、電力供給も危ぶまれるような事態に陥りました。そこで政府は10月下旬に発電や市民の暖房用の石炭の供給拡大を指令するとともに、電力企業と石炭企業とが中長期の売買契約を結ぶよう促し、今後価格の上下動があっても電力企業が石炭を確保できる態勢を作らせようとしています。

減産で生き返った大手企業

 このように10月下旬の石炭増産指令は3月の減産指令の行き過ぎを是正するためのものですが、この3月の減産指令は、一見して過剰生産能力の解消にプラスであるように見えて、実はむしろ過剰生産能力を温存し、産業から退出すべきゾンビ企業を蘇らせる愚策でした。

 中国政府が行った生産削減指令と、生産能力の削減とは字面は似ていてもその中身は正反対といっていいぐらい対照的です。そのことは、自由競争のもとで生産能力の過剰があった場合に何が起きるかを考えればわかります。こうした状況のもとでは石炭価格は下落するはずですから、生産コストが高い石炭企業は苦境に陥って倒産したり、炭鉱を閉める一方、コスト競争力のある石炭企業はむしろ市場シェアを拡大するでしょう。実際、3月の減産指令が出る前まで石炭価格は低迷し、一部の石炭企業がシェア拡大のために石炭を低価格で投げ売りをしていました。そのままの趨勢に任せれば、競争力の低い企業が退出して過剰な生産能力が減少していったはずです。著しい過剰生産能力がある局面では、まさにそうした弱肉強食の残酷な競争を通じて需給関係が調整されるのが市場メカニズムというものです。

 ところがここで中国政府が減産指令を出した結果、市場メカニズムの作用は途中で止められてしまいました。減産指令は実質的にはカルテルとして機能し、過剰生産能力があるのに石炭価格が高騰する結果を招きました。

 日本経済新聞によれば中国政府は大手石炭企業22社に増産を指令したとのこと。このことから3月の減産指令は、実は大手石炭企業を救済するための政策であったことが透けて見えてきます。

市場メカニズムが台無し