それは、「顧客の購買行動を全面的に変える」ことではないだろうか。
ネット書店として始まったアマゾンは、ごく短期間に、顧客の本の買い方だけでなく、読書行動そのものを根こそぎ変えた。
アマゾンを利用すれば、読みたい本を当日か翌日に受け取ることができるし、キンドルで即座にダウンロードすることもできる。また、ジムでキンドル本を読みながらランニングマシーンで走り、オーディオブック(アマゾンで購買したAudible)で本を聴きながら料理や掃除をするという、新しい読書習慣を生み出した。
アマゾンは、個人の購買履歴とブラウジングのアルゴリズムで導き出した「お薦め本」を表示することも忘れない。そこで気に入った本に出会うこともあるので、利用者は薦められた本をチェックして購入するようになる。そのうち、わざわざ書店に出かけて自分で選ぶのが面倒になってくる。
このような本の購買に慣らされたアマゾンの利用者が、日用品や衣料品もアマゾンで購入するようになるのはごく自然なことだ。
【参考記事】ネットでコンテンツの消費はするが、発信はほとんどしない日本の子どもたち
便利さと引き換えに利用者がアマゾンに提供しているのは、膨大な個人データだ。利用者がどんな本を読み、どんなテレビ番組や映画をいつ観るのか、といった情報だけでなく、家族構成からスポーツなどの趣味まで把握している。そして、独自のアルゴリズムで「お薦め商品」を常に提示し、購買意欲を刺激する。利用者がそれに気付いていても、アマゾンの誘惑に抗うのは難しい。
最近アマゾンがオープンしたリアル書店は、多くの意味で従来の書店とはまったく異なる存在だ。本の在庫は最小限で、平積みはない。「もしこの本が好きなら、これらの本も好きになるはず」という表示がある陳列棚には、読者レビューの星の数も表示され、まるでアマゾンの「ベストセラー」ページそのものだ。

アマゾンのリアル書店には、従来の書店にあった「偶然の出会い」はほとんどない。利用者が自由意志で選んでいるように錯覚しそうだが、実はアマゾンが示す選択肢を受け入れているだけだ。
アマゾンは、ホールフーズを通じて、同じように食料品販売でも顧客の購買行動を変えていこうとしているのだろう。アマゾンのリアル書店のようにプライム会員を優遇することで、プライム会員を増やし、同時にデータも収集する。
そこからは、何を食べる人がどんな本を読み、どんな趣味を持ち、どんな購買活動をするのかが立体的に浮かび上がってくる。そしてアルゴリズムで導き出された選択に従って、ユーザー会員は「便利な」消費生活を送れるようになるはずだ。
しかしその便利さは、膨大な個人データと引き換えにしか手に入らないものだ。