すでに反戦運動が高まる大学のキャンパスを訪問してベトナム戦争の正当性を語ることまでしていたエルスバーグの考え方が変わり始めたのは、自ら訪問したベトナムでの体験と、当時恋におちた反戦派のパトリシア・マルクスの影響だった。

 エルスバーグが職場で読んだ機密書に綴られていたのは、代々の大統領が国民につき続けた嘘であり、彼がベトナムで目撃したのは、その嘘のために戦場でむごたらしい殺し合いを続けるベトナム人とアメリカ人の姿だった。

『Most Dangerous』は、ノンフィクションでありながらもスパイ小説のようにスリルたっぷりで、ベトナム戦争の残酷な描写では容赦なく、ロマンスの要素もあり、読者を最後まで飽きさせない。娯楽小説のように読ませながら、ベトナム戦争の背景とエルスバーグが政府の秘密文書を漏洩する経緯をしっかりと伝えているのは快挙だ。

 エルスバーグの体験をたどるうちに、読者も自然に「正義を貫く」ことの難しさや苦悩を感じることができるのだが、この小説はエルスバーグを「英雄」として扱うことでは終わっていない。周囲の人々を犠牲にして我を通すエゴイスティックな部分も描いており、年若い読者を見下さない著者の真摯さを感じる。

 また、エピローグの部分で著者は読者に難しい質問を投げかけている。「政府が機能するためには、情報の一部を秘密にする必要がある。しかし、機密保護はどこまでが過剰なのか? 政府の機密情報を市民が漏洩するのは正当化されるのか? そうだとしたら、それはどんな場合なのか?」と、2013年に起こった元CIA職員のエドワード・スノーデンの例をあげている。

 とはいえ、ベトナム戦争という過ちから学んだはずのアメリカ人は、ふたたびイラク戦争という過ちをおかした。私はスノーデンよりも、そこに触れて欲しかった。「戦争に負ける初めてのアメリカ大統領になりたくない」というモチベーションで戦争が続くことを、アメリカの10代はどう思うのだろうか?

 本書を読むと、国のトップが戦争を続ける理由の愚かさと、そのために犠牲になった人々の悲劇にあらためて胸が痛む。でも、私たちはアメリカだけを責めることはできないと思う。

 本書のように、「大統領や政府は嘘をつくものだ」という都合が悪い真実を語るティーン向けのノンフィクションが売れ、しかも全米図書賞の最終候補になるのもまたアメリカなのだ。自国の不都合な歴史をこれほどオープンに語ることができる国は、世界でもまだまだ稀だろう。