しかも、そうした事件が起こらないように動く医師などがいても、政府や自治体の強い抵抗に遭う。

「赤ちゃんポスト」や医療機関だけに身元を明かす「内密出産」に取り組む熊本市の慈恵病院の蓮田健院長は自治体や国と長く対立してきた。彼はフランスやドイツを参考に日本でも内密出産について法制化するよう強く求めているが、なかなか認められない。

内密出産だけで乳児遺棄の問題を解決できるわけではないが、一人の命でも救うことができれば大きな一歩だ。それ以外にもさまざまな措置を取ることが必要ではないか。

例えば望まない妊娠を防ぐための性教育の実施、緊急避妊薬も含めた避妊方法に匿名かつ無償で年齢に関係なくアクセスできるようにすること、誰でも不安なく行ける相談窓口の設置などが考えられるが、そうした対策は日本ではあまり進んでいない。

それに人工妊娠中絶をするにはパートナーの同意が必要なのに、孤立状態になった女性がトイレや公園で出産してしまうときには男性の責任は問われない。ひどいダブルスタンダードだ。

マスコミは赤ちゃんの遺棄や殺害事件を報道する際には、必ずその背景を説明すべきだ。そうしなければ社会はずっと「女性が悪い」としか思わないし、社会やパートナーの責任を認めない状況が続く。

magTokyoEye_Nishimura.jpg西村カリン

KARYN NISHIMURA

1970年フランス生まれ。パリ第8大学で学び、ラジオ局などを経て1997年に来日。AFP通信東京特派員となり、現在はフリージャーナリストとして活動。著書に『フランス人記者、日本の学校に驚く』など。Twitter:@karyn_nishi
ニューズウィーク日本版 台湾有事の新シナリオ
2026年4月21号(4月14日発売)は「台湾有事の新シナリオ」特集。

米・イラン戦争で変わる地域紛争の「大前提」/石油危機を恐れるべき理由

※バックナンバーが読み放題となる 定期購読はこちら
※画像をクリックするとアマゾンに飛びます