<ネットフリックスの新作ドキュメンタリーが波紋を広げている。証言者の匿名性確保のためAI生成の「顔」を使用したのだ。その選択は、悲劇の痛みとドキュメンタリーの倫理を揺るがしている>

ドキュメンタリー作品のうち犯罪実録ものの世界では、視聴者との間に暗黙の了解がある。真実を伝えるために最低限の加工は許されるという了解だ。ぼかしを入れる、声を変える、再現ドラマを挿入する、などで、いずれも犯罪の目撃者や関係者のプライバシー保護を目的としている。

だがネットフリックスで配信中の新作映画『犯罪捜査ファイル ルーシー・レトビーの新生児殺害事件』はこの約束を破ってしまった。そのドキュメンタリー映像で悲しみに暮れる母親の顔を見たとき、私は啞然とした。そして自問した。「この人、本物?」

答えは「ノー」だ。よく見ると、犠牲者の母セーラと犯人の親友メイジの名の脇には小さく「デジタルで匿名化した」と注記されている。当然のことながら、この2人は顔を出したくなかった。だから代わりに、最新のAI(人工知能)で生成した「人間」を登場させたわけだ。

事情は理解できるが、結果は見るに堪えない。AI版セーラは回想シーンで顔をうずめて泣き崩れるのだが、残念、涙が出ていない。

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伝わらない悲劇の痛み