「がんステージ分類」の限界をAIで打破する
僕がこのAI予測技術で打破したいのは、現行の「がんステージ分類」だ。この規則では、腫瘍の大きさと深さ(T因子)、リンパ節転移の数や範囲(N因子)、そして遠隔転移の有無(M因子)に基づいて、がんの進行度がステージⅠからⅣまで分類される(がんが上皮に留まるステージ0を含めることもある)。
膵がんでT4N1M0ならステージⅢ、という形だ。「どういうTNM因子の組み合わせが、ステージのいくつに相当するか」は、データベースなどで多くの患者の治療成績を収集して、ステージⅠからⅣまでの結果が「きれいに分かれるように」、がんの種類別に決められている(治療の進歩で成績が変わるので、一定期間で更新される)。
現在は患者の治療を決定する時、このステージ別の数値を参照するのが一般的である。例えば、「あなたと同じステージⅠの場合、手術後の5年生存率は80%だから切除が推奨されます」「ステージⅣだと10%しかないから手術以外の治療がよいでしょう」というように。
しかし、実際はステージⅠでも再発する患者はいるし、ステージⅣに分類されても治癒する場合が稀ならず存在する。まさに千差万別のがん病態をたった4つの分類に押し込めて判断しているのは、これを超える知恵が今のニンゲンにないからである。
もし、全知全能の神が診察室にいたら、「あなた」が手術を受けた場合に5年後に生きているか、早期に再発してしまうか、正しく言い当てるはずだ。
AIなら、その領域に近づけるかもしれない。できるだけ多くの患者から、最大限の情報――年齢や性別、家族歴、生活歴、既往歴、血液検査、画像検査、生検組織の病理診断あるいは顕微鏡写真、遺伝子発現、さらには腸内細菌の種類など――をインプットし、術後成績との関係性を学習させる。
このようにして構築された予測式に、「あなた」の情報を入力すれば、手術をした場合にどうなるか、手術をしなかった場合はどうか、今よりもはるかに正確に言い当てることができるだろう。その時、ステージ分類による治療の標準化は意義を失うに違いない。
「手術の標準化」というキーワードも現在の流行だ。例えば「左肝切除」という術式を、皆同じやり方で進めましょう、という方向性である。しかし、これも僕は好きではない。