少なくとも、トップが公に誓った「襟を正す」といった気持ちが、表面上のことではなく本気であることを明確にし、浸透させることができていれば不正は続いていなかったはずだ。

そのためには、ただ公の場で表明するだけでなく、就業規則や人事評価システムといった人事制度の変革が必要となる。その上で、ダブルバインドのようにゆがんだコミュニケーションが流通しないようなルールや企業文化づくりも欠かせない。

現状をきちんと伝え、その中で最適な方策を導き出せる企業文化であれば、大掛かりな調査などしなくても現場は本当のことが言えただろう。現場に一方的に無理をさせず不正を根絶するまでの道筋を立てるには、トップの本音が重要であり、中間管理職の力量が試される。何を優先するのかをトップから中間管理職、現場まできちんと共通認識にしなければならないのだ。

実際に筆者がファーストリテイリングの人事の執行役員をやっていた時には、価値観や判断基準を共有するために、トップ、役員、部長、現場の管理職が集まって、こんな時にはどう考えるべきか、どう行動すべきか、ということを議論する研修を何度も開いていた。

人の判断なので、完璧に同じにはならないが、自分たちが何を大事にするのかという軸を共有するには、きちんとしたプログラムが必要だ。

具体的には、現場で起こっている事象を例に、どう判断すべきかをまずは自分たちで考え、その後トップの意見を聞き、議論を戦わせ、大事にする価値観や判断基準をそろえていったのだ。そうすれば、自信を持ってメンバーに指示ができる。

何を優先させるべきかを決められないトップや中間管理職がいれば、ダブルバインド・コミュニケーションが起こりえる。その時にいちばん苦しむのは、結局現場の社員だ。

ダブルバインド・コミュニケーションが生じないような環境づくりに取り組めば、何度も不祥事を起こすような会社から、社会に対して公明正大に事業に取り組んでいると胸を張れる会社に生まれ変われるはずだ。

ダブルバインド・コミュケーションの罠により、自殺にまで追い込まれるような精神状態に陥るケースもありえる。仕事をすることで不幸になるような会社に、決して未来はない。

あなたの会社は大丈夫ですか。そして、あなた自身がダブルバインド・コミュニケーションを作り出していませんか。

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