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 だが、ロシアの軍事介入はこれに留まらず、質と規模の両面でさらに拡大する可能性もある。ロシアとしては自国の軍用機を撃墜された以上、対内的にも対外的にも何らかの軍事的報復措置をとらなければメンツが保てない立場にある。また、今回の撃墜事件前に成立しかかっていた、ロシアにとって有利な対IS「大連合」へと可能な限り軌道を回復したいことも容易に想像がつく。そこで問題になるのが、ロシアの軍事介入がどこまでエスカレートし、トルコとの関係やシリア内戦の今後にどのような影響を与えるのか、である。

 とはいえ、ロシアとしては、NATO加盟国であるトルコとの全面戦争は絶対に避けなければならない。したがって、ロシアの対応は、NATO全体を敵に回さず、なおかつトルコ軍との直接衝突にも至らない規模のものということになろう。

 さしあたり、ロシアは農産物の輸入停止や原発建設の停止といった経済的報復措置に加え、軍事面では、前述した防空態勢の強化を図っている。

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 防空態勢の強化といえばやや受け身にとられるかもしれないが、ロシアがラタキアに配備したS-400防空システムの射程は250kmに及び(400kmとする報道も見られるが、これは開発中の新型ミサイルを使用した場合の数字であり、現行型の最大射程は250kmとなる)、シリア北部上空を広くカバーする。これに巡洋艦の防空システムや新たに増派される戦闘機部隊も加えると、トルコはシリアへの介入を大幅に制限されることになろう。

トルコを阻むロシア軍の「バブル」

 以前、NATOのブリードラブ欧州連合軍最高司令官は、シリアに展開するロシア軍はNATOの介入を寄せ付けない「バブル」を形成していると述べたことがあるが、その「バブル」がさらに膨らむことになる。

 トルコはシリア北部をISの侵入できない「安全地帯」とする構想を今年7月に立ち上げ、その域内でトルコ系のトルクメン人武装勢力への支援を行うとともにクルド人勢力を攻撃していたが、ロシアの強力な「バブル」が展開されている状況では、こうした活動が困難となろう。

 さらにロシアは撃墜事件の発生する前からラタキア北部でトルクメン人武装勢力に対する空爆を実施していたほか、撃墜事件後にはトルコからシリア北部に入ってきた援助隊に対する空爆も実施した。

 また、ロシアは現在の主力基地であるラタキア県のアル・フメイミム基地に加え、レバノン国境に近い地中海沿いのホムス県アル・クサイル市でも航空基地を拡張しつつあると伝えられ、事実であれば二拠点からの航空作戦を展開するようになるかもしれない。