「失っても、また歩き出せる」――桜が託した想い

この取り組みには、地域住民の想いも重なった。配布後、乳がん経験者の女性から近藤氏に声がかかったという。彼女はピンク色のしおりを手にし、「この色がピンクリボン運動と重なって見えた」と語った。「胸を切除するのは本当に死ぬような思い。でも再建したり、そのままで生きる人もいる。切られても、もう一度立ち上がる――桜と同じだと思った」と。

このエピソードは、廃材の再利用という枠を超え、社会的・精神的な再生の象徴として、プロジェクトに新たな意味を与えた。

彼女は自身が開発した乳がん手術後でも着られる水着のお披露目会で、このしおりを使いたいと申し出たという。

2024年10月には桜の伐採が実施され、翌年5月にかけて制作が進行。地域回覧板を通じてしおりが配布された。廃材を「思い出のかけら」に変えるプロジェクトは、地域に静かな感動を広げた。

露橋公園の桜
長年にわたり地域の春を彩った露橋公園の桜。その木のチップが「さくらのしおり」として、新たな形で命をつなぐ

近藤印刷が掲げる次の目標は、全国への展開だ。近藤氏はこう話す。

「ソメイヨシノは寿命が60年ほどで、戦後に植えられた木々が全国で一斉に寿命を迎えています。伐採をきっかけに同じような取り組みが広がれば、日本中でさくらのしおりを作ることも夢ではないと思っています」

近藤印刷の挑戦は、地域密着の印刷会社が社会課題に向き合い、共感を軸に循環を生み出す新しいSDGsモデルとして注目されている。

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