アートのライセンスビジネス

──豊岡は中貝宗治前市長が平田さんを招聘して演劇を中心とした街作りを推進したわけですが、そのきっかけとなったKIACが開館してちょうど10年経ちました。
オープンして10年で、毎年20数カ国から100件近い利用申し込みがあって、その中から10数団体を選んでいます。日本の劇場は滞在制作機能をもっていないので、例えば神奈川芸術劇場や東京文化会館などが制作する作品を、実はKIACに滞在して作っているんですよ。それは予想していたんです、そういうニーズはあるだろうと。
ただ、1つだけ予想してなかったのが、東南アジアのアーティストが自分の国で獲得した助成金で来られるようになったこと。それは、20年前にはない状況です。以前は日本の国際交流基金が呼ぶ一方だったのが、東南アジアの経済発展で、タイとか、特にマレーシア、シンガポールなどは文化予算が結構あるので、自分で国内の助成金を取って日本に来られる。そのときにKIACの滞在制作アーティストに選ばれたというお墨付きが効くんですね。私たちでいうと、アヴィニョン演劇祭*から正式招待されたみたいな感じです。
でもこれって、今後日本の生きる道なんです、まだブランド力はあるから。日本はこれからこういう、ライセンス型の商売で食っていくしかないわけです。アメリカだってそうじゃないですか。iPhoneという商品そのものは作ってなくて、ライセンスで商売しているわけでしょ。アートもちょっと似たところがあるので、これからは日本に来てもらって作ってもらうっていうことですよね。
*南仏のアヴィニョンで毎年7月に3週間にわたって行われる国際演劇祭。延べ10万人の入場者数を誇り、1000以上の自主参加団体の作品が上演され、質量ともに世界でもっとも重要な演劇祭とされる。
──演劇と街の関係でいえば、2020年から始めた豊岡演劇祭があります。フリンジ*をメインにしたというのは、地方都市で国際美術展がもてはやされていることへの、カウンターみたいなところもあるのかなと。
いや、カウンターってほどではないです。演劇祭も今ヨーロッパでも多様になっていて、クンステン・フェスティバル・デザール**みたいなコンセプチャルで尖ったものでクオリティを保つものもあるんですけど、僕が親しんできたのはアヴィニョン演劇祭のような見本市型です。
それで、アゴラもそうですけど、ちょっと玉石混交のほうがいいと個人的にも思っていて、芸術監督とかプログラムディレクターが鋭くプログラムを決めないほうが僕は好きなんですね。「なんでこんなの選んだんですか?」くらいのものがあっていいんですよ、アートだから。それはなかなか最初理解されないんですけど。もう豊岡演劇祭のスタッフたちも、コンセプトとかあまり言わなくなってきたので、いい感じになってきたかな。若い人のほうがね、コンセプト、コンセプトっていうんです。「平田オリザにコンセプトなんかねぇよ」っていつも言ってるんですよ。いいんだよ、いろんなお客さんが来ればって(笑)。
*演劇祭の公式招待作品ではなく、劇団が自ら参加申し込みして上演される作品。
**ベルギーのブリュッセルで毎年5月に開催される演劇祭。若手アーティストを起用しプログラムの約半分が世界初演など、各国の演劇関係者が注目している先端的な演劇祭。
