<「その場しのぎ」>

セーヌサンドニ県では多くの五輪イベントが行われる。セーヌサンドニはフランスの中で移民比率が最も高く、また最も貧しい県だ。

同県の教師たちは、この地域の学校への予算配分が不十分だとして2月以来ストライキに入っている。県内では、ホームレスや旅行者によるキャンプや不法占拠が見られる。

地区によっては、無許可の露天商が街路に列をなすところもある。

セーヌサンドニ県イルサンドニ市のモハメド・グナバリ市長は、投資不足のため何年も遅れていたインフラや住宅の整備が五輪のおかげで進んだ、と語る。

だが、フランスの法律・矯正施設を調査するCESDIPに所属する社会学者のオリビエ・カーン氏は、警察による取り締まりと厳しい刑罰への依存は、貧困層、移民、ホームレスに不当に大きな影響を与えている、と指摘する。

「万事がその場しのぎだ」とカーン氏は言う。

マテ検察官によれば、この地域における麻薬取引や無許可の販売といった路上犯罪をターゲットとして昨年開始された「ゼロ・トレランス(非寛容)」の取り締まりによって、刑務所の収容者数はさらに増加しているという。

セーヌサンドニ警察の地域治安担当責任者ミシェル・ラボー氏は先週の記者会見で、3月と4月には警察官を4000人増員したと述べ、この取り締まりは「クリーンアップ」であり、地元住民と「観光客、観客、選手の家族」のために安全を提供する作戦だと語った。

「これは始まりにすぎない。(五輪に向けて)さらに強度を上げていく予定だ」とラボー氏は語った。

ロイターが取材した法律専門家7人は、この取り締まりに批判的だ。

ボビニーの法廷弁護士ファド・クニア氏は、無許可の路上販売などの法律違反に重い刑罰を科すことは過剰であり、ただでさえ脆弱な立場にある人々をさらに追い詰めることになる、と言う。

<パンク寸前の施設>

欧州理事会のデータによれば、フランスの刑務所・拘置所の過密度はルーマニアとキプロスに次いで欧州第3位。また2022年には欧州内でスロベニアに次ぐペースで刑務所・拘置所の人口が増加した。

司法省のデータからは、フランスの施設が史上最も過密な状態にあることが分かる。

五輪開催中に予想される訴訟件数に対応すべく、ボビニーの裁判所では迅速審理を拡大する準備を進めている。だが国際刑務所監視局(OIP)は、迅速審理では通常の裁判に比べて実刑判決に至る可能性が8倍高くなると指摘している。

OIPの研究者であるヨハン・ビール氏は、司法省のデータでは迅速審理手続きの活用が近年徐々に増加しており、施設の過密状態に拍車を掛けている、と語る。

元受刑者の支援に当たる慈善団体「エメルジャンス93」は、過密状態のために刑務所内での活動や支援を利用しにくくなっており、そのことが社会復帰への妨げになっている、と指摘する。

さらに困ったことに、エメルジャンス93がセーヌサンドニ県で運営し元受刑者を雇用している2カ所の洗車場が五輪期間中の閉鎖を迫られているという。1カ所は五輪期間中に閉鎖されるショッピングモールの駐車場内、もう1カ所は日本選手団に提供される施設内にあるという。

エメルジャンス93でソーシャルワーカーとして働くマニュエル・シャジュモウィーズ氏は、同団体は五輪組織委に対し、選手や役員に提供される500台の車両の洗車を元受刑者に任せてくれるよう申し入れたが、まだ回答がないという。

[ロイター]
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