「彼らは知っていた」──。

水文学者のアブドゥル・ワニス・アシュール氏がリビア東部の港町デルナを守るダムシステムの調査を始めた17年前、住民が危険と隣り合わせの状況に置かれていることは既に誰の目にも明らかだったという。

「データ収集により、ダムの亀裂や降雨量、繰り返す洪水など、デルナ渓谷には問題が山積しているとわかった」とアシュール氏はロイターに明かした。

「以前にも警告はあった。このことは、ダムを査定しに訪れた水道局の専門家や外国企業を通じてリビア政府もよく知っていた」と同氏は言う。

アシュール氏は昨年、ダムの緊急メンテナンスを実施しなければ、町が大災害に見舞われる可能性もあると警鐘を鳴らす学術論文を発表した。そして「大災害」は今月、同氏が指摘した通りの展開を迎えた。

一年の大半は枯れているデルナ・ワディ川が9月10日夜、丘陵地帯に降り注ぐ雨水を溜め込むためのダムを破壊し、下流域にある町の大部分を流し去った。数千人が死亡したほか、いまも数万人が行方不明者となったままだ。

アブドゥルカデル・モハメド・アルファカクリさん(22)は、自身は4階建ての自宅の屋根に登り助かったが、同様に自宅の屋上に避難した近隣住民が海に流されていくのを目撃したと話した。

「ライトを付けた携帯電話を持ち、手を振りながら叫んでいた」

倒壊した家屋の下敷きになったり、浜に打ち上げられたりした遺体の多くが未だ収容されていない。リビア近代史上最悪の災害を防げたかもしれない警告が無視されていたことに、多くのリビア人が憤っている。

修復工事の契約

当局がデルナ上流部のダム修復を試みたのは、トルコの企業に工事を発注した2007年にさかのぼる。

だが2011年、リビアで北大西洋条約機構(NATO)の後ろ盾を受けた蜂起や内戦が発生。長年にわたって独裁体制を敷いていたカダフィ政権が打倒された。その後数年間、デルナは国際武装組織「アルカイダ」や過激派組織「イスラム国(IS)」などイスラム過激派の支配下に置かれた。

トルコ企業アーセルは、デルナのダム修復プロジェクトが07年に開始し、12年に完了したとウェブサイトに記載している。リビア水資源省ダム崩落調査委員会のオマール・アルモガイルビ報道官はロイターに対し、修復の請負業者は治安情勢の悪化により工事を完了できず、要請を出しても戻ってくることはなかったと明かした。

モガイルビ氏は、仮に修復工事が完了していればデルナの被害を抑えることができたかもしれないと認めた一方、「ストーム・ダニエル」がもたらした大洪水の水位はダムの貯水容量を超えていたため、ダムは決壊していた可能性が高いと指摘する。

2021年、リビア監査局の報告書は、デルナ上流域にあるダム2カ所のメンテナンス作業を進められなかった理由として水資源省の「怠惰」を挙げた。

報告書では、ダムの維持管理費や修理費として230万ユーロ(約3億6300万円)が割り当てられているものの、そこから差し引かれた金額はわずかだ。資金が実際に使用されたかどうかや用途については明記されていない。

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