だがパタクによれば、問題はウェストがキャンセルされるか否かよりもキャンセル自体にある。「キャンセル・カルチャーは人を辱めるだけだ」と、彼女は言う。「自分の言動の責任を取らせたいなら、排除しても効果はない。人をキャンセルするのは悪さをした子供に何が悪いのかを説明せず、言い分も聞かずに、ただ反省しろと言って部屋に閉じ込めるのと同じ。そうした行動は相手の心に恥辱の種をまく。種はやがて芽を出し、排除され、つるし上げられるたびに大きくなる」

排除する前に「その人の考え方、メンタルヘルス、人生と言い分を考慮するのが大切」だとパタクは説く。「ウェストの発言を聞くと、私は深刻な精神疾患を抱えた人々をケアした若い頃の体験を思い出し、胸が痛む。行動の裏にいる人間を理解しようと努力すれば、思いやりのある関係を築く機会になる」

ウェストは16年に双極性障害と診断されたが、薬を飲まないほうが創造性を発揮できるから服用をやめたと数年後に述べている。

差別発言は悪いとした上で、パタクは「ウェストの人生を知るように努め、彼を人として理解すること」を勧める。

そもそも、ウェストほどの大物を社会的に抹殺するのは不可能かもしれない。

「奴らに俺のラップをやめさせることはできない。そうだろ?」。03年のデビュー曲「スルー・ザ・ワイヤー」で、ウェストはうそぶいた。交通事故で粉砕されたあごをワイヤーで固定した状態でレコーディングしたこの曲がヒットし、そこから彼はスターになったのだ。

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