駐米サウジアラビア大使を暗殺しようとしたという罪状で、イラン系アメリカ人が起訴された事件。謎があります。

 アメリカFBIの発表によれば、テキサス在住のイラン系アメリカ人マンソール・アーバブジアが、イラン革命防衛隊に雇われ、メキシコの麻薬犯罪組織ロス・セタスに暗殺を依頼した、というのです。

 イラン政府は、これを全面的に否定していますが、アメリカとイランとの関係は、一段と険悪なものになりました。さらにサウジアラビアとイランの関係が悪化したのも、当然のことでしょう。

 そもそもサウジアラビアは、国内にいるシーア派が、同じシーア派のイランの後押しを受けて謀反を企てていると疑っていますから、対イラン政策が強硬なものになることは避けられないでしょう。

 本誌日本版10月26日号は、「お粗末過ぎるイランのサウジ大使暗殺計画」と題した記事で、このニュースを取り上げています。

 この記事では、次のような疑問が提示されます。「革命防衛隊はなぜ、すぐに発覚するような犯罪計画に手を染めたのか」と。

 ちなみに革命防衛隊とは、イラン革命で誕生した現イラン政権を防衛する軍事組織。国軍兵士は徴兵によって一般国民から構成されますから、現体制に不満を持つ人間も紛れ込む可能性があります。この連中がクーデターを起こさないように対抗する軍事組織が革命防衛隊なのです。現政権に忠誠を誓う精鋭部隊で、アフマディネジャド大統領も、ここ出身です。

 この組織が、なぜ駐米サウジ大使暗殺を狙ったのか。「革命防衛隊内部には、対外的な危機をつくり出したい勢力がいる。それによって自分たちの力を強化し、イラン国内のさまざまなグループを団結させようとしている」との亡命イラン人の見方を紹介しています。

 でも、「細心の注意が必要なこの種の作戦に、革命防衛隊はなぜアーバブジアのような素人を使ったのか。多くのイラン問題の専門家は首をひねる」

 これが普通の反応でしょう。この記事は、アーバブジアのいとこで革命防衛隊の幹部が「上司の許可を取らずに、アーバブジアを内偵役に雇った可能性がある」と推測しています。

 しかし、革命防衛隊がなぜ素人を使ったのかという疑問を呈するのであれば、「そもそも、この暗殺未遂は本当にあったことなのか」との、もうひとつの可能性についても検討していいのではないでしょうか。アメリカにしてみれば、反米国家イランを中東世界で孤立化させたいという欲求があるのは明らかなのですから。

 まずは、そもそもアメリカの発表を疑ってみることから始め、その可能性を検討・分析する内容も含まれていないと、アメリカ政府の言い分をナイーブに信じた記事と批判を受けても仕方がないのではないでしょうか。