民主化を進めると、過激な思想を持つ勢力が伸長する。これが民主主義のパラドックスと呼ばれるものです。

 たとえば戦前のドイツ。民主的な選挙の結果、ナチス・ドイツが政権を掌握しました。

 パレスチナでは、評議会議員の選挙を先延ばししていた自治政府に対して、アメリカが「民主的な選挙を実施すべきだ」と圧力をかけ、2004年12月、議員選挙が行われました。結果は、反イスラエルの立場をとるイスラム原理主義勢力ハマスが勢力を伸ばし、以後、中東和平は停滞したままです。

 今回の「アラブの春」でも、この民主主義のパラドックスが再現されそうです。9月9日、エジプトの首都カイロで大規模な反イスラエルデモがあり、デモ隊の一部はイスラエル大使館を襲撃。館内に侵入して機密文書らしきものを窓からばら撒くという事件が発生しました。これを受けてイスラエル大使館員は国外に退去。エジプトとイスラエルの関係が悪化しています。

 エジプトで長期独裁の座にあったムバラク前大統領は、イスラエルと平和条約を結び、国内に根強い反イスラエル感情を強権で押えこんできました。しかし、反政府勢力による民主化運動の結果、ムバラクが退陣に追い込まれると、抑え込まれていた反イスラエル感情が呼び覚まされ、イスラエルとの関係が悪化。かえって中東情勢は混迷を深めることになりそうです。

 では、同じく「民主化」が実現しつつあるリビアはどうなのか。カダフィ政権崩壊で「民主化が進展」と報道されています。しかし、リビアの反政府勢力の中には、アルカイダとのつながりが深い組織があるのです。

 この点を取り上げたのが、本誌日本版9月14日号の記事「リビアの未来を握る要注意人物」です。

 ここで取り上げられた人物は、アブドルハキーム・ベルハジ(45)。首都トリポリにあるカダフィ大佐の居住区に突入した部隊の指揮官です。彼は、戦闘員8000人を擁するトリポリ軍事評議会のトップに就任しました。

 しかし彼は、リビア・イスラム戦闘集団(LIFG)の創設兼元リーダーだというのです。

 この組織の現役メンバーや元メンバーの何人かはアルカイダの幹部でもあり、アメリカやイギリスは、このグループを国際テロ組織と見なしているそうです。LIFGは、「最も危険なイスラム勢力になる可能性も十分にある」(本誌記事より)。

 エジプトやリビアの「民主化」は、確かに望ましいものでしょう。でも、だからといって、世の中が平和になるとは限らないものなのです。