「お母さん、痛い! 助けて!」

娘のオルガは60~70メートルほど逃げたが、そこでヒグマに追いつかれた。ヒグマはオルガの足をつかみ、彼女は悲鳴を上げて助けを求めた。

しかし周りには誰もいない。そこでオルガは携帯電話で母親に電話し、こう伝えた。

「お母さん、ヒグマが私を食べている! お母さん、痛い! 助けて!」

ヒグマに襲われたと叫ぶ娘の声を聞いて、母親は最初、冗談を言っていると思った。しかし、電話から娘の声のほかに、獣のうなり声や、むさぼり食う音まで聞こえてきて、ようやく冗談ではないことに気づき、恐怖と愛する我が子を助けることができない絶望感に襲われた。

電話は1時間も続いた

オルガと母親の電話はそれから1時間も続いたという。人は極限状態になると自身の母親に助けを求めるものなのだろう。オルガは母親に、ヒグマが今彼女を食べていると叫び続けた。

オルガによると、3匹の仔熊も「食事」に加わっていたという。

約1時間後、オルガはとうとう「もはや痛みを感じなくなった」と話した。

「お母さん、色々とごめんね。許してね。大好き」

最後にその言葉を残し、オルガからの電話は途絶えた。

ヒグマはイゴールの帽子をくわえていた

イゴールの兄アンドレイが現場に到着したのは午後1時頃だった。

その時、現場にはまだイゴールを喰ったヒグマがいた。アンドレイはそのヒグマを目撃したが、丸腰の彼には何もできなかったという。

アンドレイはすぐさまイゴールの妻タチアナに電話し、夫が死んだことを伝えた。

それから程なくして現場に警察と救急車が到着した。

また、事件はロシアの野生生物保護庁にも報告され、ハンターが急行。彼らは死体の上にいるメスのヒグマを見つけた。そのヒグマの歯には、殺害されたイゴールの帽子が挟まっていたという。

ハンターはすぐヒグマに向かって銃を発射した。ヒグマは傷を負ったが逃げ、ハンターたちは木の小屋を作り、朝まで現場に残ることにした。

胃の中からイゴールとオルガの肉が...

翌日の8月14日(日)、ハンターたちの手によって母熊1頭、仔熊3頭が射殺された。仔熊は2歳くらいで、イヌよりも体が大きかった。

射殺されたヒグマ4頭は、エリゾボ地区警察署で解剖された。その胃の中からは犠牲になったイゴールとオルガの肉が出てきたという。

8月17日、イゴールとオルガはコリャーキ村で埋葬された。オルガはこの年、教育大学を卒業し、心理学者としてモスクワ人文科学現代大学に入学していた(ジャーナリストのIgor Kravchukの動画より)。

人間がヒグマに喰われる「危険地域」