今回の事件の実行犯が、過激な思想を理由に解雇される予定であった治安部隊のメンバーであったという事実は、新政権の構造的な脆弱性を露呈させている。アルシャラ大統領が進める旧武装勢力の国軍への統合プロセスは、急進的な変革を優先させるあまり、個々の隊員の思想背景を精査するスクリーニング体制が機能不全に陥っている。
これは、ISが国家機構の内部にまで「静かなる浸透」を許している可能性を示唆しており、もし治安組織そのものがテロの「温床」へと変質してしまえば、いかなる外部からの支援も無効化されかねない。
中枢の復活が招くグローバルな連鎖リスク
現在、ISの中枢機能は物理的には大幅に弱体化している。かつての「領土」を失い、地下活動を余儀なくされている現状において、彼らにとっての唯一の生存戦略は、ブランドの再興(リコンスティテューション)である。
この中枢が再びシリアで勢力を盛り返すことは、全世界に分散した各地域の「州」や関係勢力の士気を高める強力な起爆剤となる可能性がある。アフリカやアジアの地域支部にとって、中枢の復活は自らの闘争の正当性を再確認させ、ネットワーク全体の統合力を強固にする効果を持つ。
また、仮にシリアでの活動が本格的な再生に向かえば、かつての全盛期とまではいかないまでも、ISはブランドやイデオロギーの影響力を取り戻すリスクもある。インターネットを通じて拡散される「勝利のナラティブ」は、世界各地で社会への疎外感や不満を抱える個々人を再び惹きつける。
これにより、組織との直接的な接触がない個人が過激思想に魅了され、自国で凶行に及ぶ「ローンウルフ(単独型)」テロを誘発・助長するリスクがある。
テロの輸出拠点化を防ぐための国際的監視
シリア国内に目を向ければ、旧アサド政権下や旧クルド勢力によって拘束されていた数千人規模のIS戦闘員の処遇という問題も抱えている。これらの戦闘員を収容する施設の管理が、新政権の治安部隊に委ねられている現状は危うさを露呈する。
統治機構の脆弱さは、戦闘員が再び戦線に復帰する隙を与えるだけでなく、意図的な手引きによる脱獄の再発さえ予感させる。国際社会がシリアの新政権支援を復興や経済支援、あるいは人道支援に限定し、対テロというハード面の監視と治安組織の徹底的な浄化作業を怠れば、シリアは再びグローバルな恐怖の輸出拠点へと逆戻りしかねない。