公共の場所における防犯カメラ網を世界でいち早く整備したのはイギリスだ。1985年に、海辺の街ボーンマスの歩道に49台の防犯カメラを設置したのが最初であるという。

もっとも、防犯カメラの普及が進んだのは、いわゆるバルガー事件(1993年)がきっかけだった。この事件では、10歳の少年2人が2歳の男の子ジェイムズ・バルガーをショッピング・センターで誘拐し、撲殺した後、線路上に放置した。

その際、少年が幼児を連れ去る様子を防犯カメラがとらえていたことが、事件解決に一役買った。そして、その映像がマスメディアによって繰り返し流されたため、イギリス人は防犯カメラに大きな期待を寄せるようになったのだ。

日本でも、長崎男児誘拐殺人事件(2003年)がきっかけで、防犯カメラの設置が加速した。この事件では、中学1年の男子生徒が、家電量販店のゲーム体験コーナーで男児に声をかけ、連れ出した後、7階建ての立体駐車場の屋上から突き落とした。この事件でも、繁華街を歩いている姿が防犯カメラにとらえられ、それが事件解決の決め手となった。

このように、イギリスと日本には、防犯カメラの普及については共通点があるが、その運営方法はまるで違う。例えば、日本ではリアルタイム・モニタリングをせず、録画のみ行うのが普通だ。つまり、日本のカメラの実体は「捜査カメラ」である。

対照的にイギリスでは、リアルタイムのモニタリングを行い、危険な状況を把握したら、カメラに付設したスピーカーで呼びかけ、犯行を制止することさえ行われている。

イギリスのリアルタイム・モニタリングは、すでに今世紀の初めから実施されている。例えば、ロンドンのニューハム区では、1997年から防犯カメラが公共の場所に設置され、2001年には、防犯カメラのモニター室に85台のモニターが置かれ、35名の専従者が交替でモニタリングしていた(写真)。

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ロンドン・ニューハム区のモニター室 筆者撮影
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さらに、イギリスでは、地方自治体が公共の防犯カメラを管理しているのが一般的で、ニューハム区の専従者も警察官ではなく地方自治体の職員だ。このことも、日本との大きな違いである。

その背景には、地方自治体が、「犯罪及び秩序違反法」によって、警察などと協力して、犯罪減少のための戦略を策定し、推進しなければならないこと(6条)、そして、犯罪への影響と犯罪防止の必要性に配慮して各種施策を実施しなければならないこと(17条)がある。この「犯罪及び秩序違反法」こそ、犯罪機会論を明文化したものだ。ところが、日本にはそうした法律はない。

このように、防犯カメラ先進国と言えるイギリスだが、実際、防犯カメラ設置による犯罪防止効果はあったのだろうか。最も信頼性が高いとされている研究(英国内務省調査研究252号)によると、中心市街地に設置された防犯カメラには、犯罪を4%減少させる効果があり、駐車場に設置された防犯カメラには、犯罪を41%減少させる効果があったという。

この数字の違いは、犯罪機会論の効果の違いを反映しているのだろう。つまり、犯罪機会論は「衝動的・感情的な犯罪」には弱く、「計画的・打算的な犯罪」には強いから、防犯カメラの効果も、街頭で低く、駐車場で高くなると考えられる。

一方、日本でも防犯カメラの効果を調べた事例はあるが、イギリスのように厳密に科学的な検証を経たものではないので、信頼性は必ずしも高くない。

効果検証を学問的に耐えられる形で行うためには、比較対象を設定する必要がある。例えば、A地区における防犯カメラの効果を検証するためには、A地区と地域的特徴(自然、人口、産業、交通など)やその量的・質的変化が似ているが防犯カメラを設置していないB地区を選定し、両地区の犯罪発生率の変化を比較することが必要だ。その結果、A地区の犯罪発生率の減少率の方が大きければ、防犯カメラに防犯効果があると言える。

しかし、両地区の犯罪発生率の減少率が同一であれば、防犯カメラには防犯効果が認められず、B地区の犯罪発生率の減少率の方が大きければ、防犯カメラには犯罪を増やす効果があることになる。

地方自治体が管理