日本囲碁界に勝利した「民族英雄」
晩年の聶は、「囲碁の強い人は政治もうまい。友人の習近平の囲碁の腕前は分からないが、政治はうまくやっている」と語っている。国家は母よりも尊い存在だとする彼の国家観は、中国の教育を受けて育った多くの人々が共有してきた。日本囲碁界に勝利した彼は「民族英雄」と称され、中国人が日本に対して自信を取り戻す原動力となった。
パンダ外交と同様、囲碁外交も「日中友好」を掲げつつ、民族的自尊心を高める装置として機能してきた。しかし2026年に入って棋聖は世を去り、パンダは姿を消し、日中航空路線の運航停止も続く。GDPで日本を大きく上回る中国は、もはや友好をあえて演出する必要がない。政府だけでなく民間でも緊張は可視化されつつある。日中関係は、既に歴史的な氷河期に足を踏み入れつつあるのかもしれない。
ポイント
聶衛平
1952年生まれ。父は革命第一世代の情報管理専門家。80年代の日中スーパー囲碁で中国を3連覇に導き、囲碁ブームを起こす。日本で活躍する孔令文(こう れいぶん)七段は実子。風刺画で聶が持つ扇子の「烂(爛)柯」は囲碁の別称。
陳毅
1923年に中国共産党入党。抗日戦争と国共内戦で活躍。中華人民共和国成立後は上海市長、副首相、外務大臣などを歴任した。72年死去。
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