翻弄される「末端」の人々

「わずか3年の間にクルスの兄弟2人と、いとこ4人が殺され、もう1人の兄弟と義理の兄弟1人は行方が分からなくなった」。クルスは安全を求めてアメリカに移住し、家族を持った。しかし、メキシコに戻れば命の危険もあるのに、移民の取り締まりで逮捕され強制送還される。

クルスのような人々は、麻薬取引や麻薬戦争に関する報道で詳細に語られることはほとんどない。だが闘争によって命が危険にさらされるのは、貧しい家族や先住民、農民、移民たちだ。だからこそ、クルスの国外退去をめぐる裁判で弁護側の専門家証人を務めたスミスは、彼の人生を丁寧に紡ぐ。

ただし、メキシコの麻薬取引の歴史で疎外されてきた女性や性的マイノリティーについては、本書では十分に語られていない。100年の歴史における女性の人生と経験や彼女たちの貢献は、今後の研究や考察が待たれる。

メキシコの麻薬ビジネスをめぐる国際的な議論では、メキシコ人以外の見解が目立ちやすい。しかしメキシコの著作をはじめ、言語を問わず示唆に富んだ報告書や研究論文、ドキュメンタリー作品も数多くある。メキシコの研究者や著述家こそ、より密接な関係を持つテーマだ。

From Foreign Policy Magazine

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