(7)チョ・ナムジュ『82年生まれ、キム・ジヨン』

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2016年に発売されるやいなや、韓国で130万部を突破し、世界25カ国で翻訳が決定、2020年には映画化も果たした異例のベストセラー小説です。→詳しくはこちら
大まかなあらすじ
・33歳になるキム・ジヨン(韓国における1982年生まれの一番多い名前)は、3年前に「幸せな」結婚をし、去年、女の子を出産したばかり
・それがある日突然異常な症状を見せはじめるようになり、その原因を探るため、誕生から学生時代、受験、就職、結婚、育児までの半生を克明に振り返る
この小説がなぜフェミニズムの入門書となるかといえば、これは現代の「得体のしれない悩み」に他ならないからです。
第二波フェミニズムの記事でも詳しく紹介していますが、「得体のしれない悩み」とは、ベティ・フリーダンによる『女らしさの神話(邦題:新しい女性の創造)』(1963)で取り上げられた、アメリカ郊外に住む高学歴の中産階級主婦たちが抱く絶望のことです。

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夫の妻として、子どもの母として、女性役割に押し込まれながら息を殺して「空っぽの巣」で生きている女性たちが、その悩みを自覚することによって第二波フェミニズムが生まれ、世界的なムーブメントにつながりました。
それから半世紀以上経った東アジアで、キム・ジヨンというひとりの主婦の絶望という「得体のしれない悩み」が世界中の共感を集めているという時点で、筆者はフェミニズムを学んできた者として衝撃を受けました。
近代に入って第一波フェミニズムが生まれ、男女平等という当然の理念が制度的にも社会規範としても劇的に浸透したかのように見える今日、女性をめぐる状況は、改善するどころか50年前のアメリカとほぼ変わっていないということになります。
ケア責任、格差、教育、性暴力、差別――女性の前に幾重にも立ちはだかる壁を、いかに克服することができるのか、いまを生きる私たちの手にかかっているということを本書は教えてくれます。
参考
『82年生まれ、キム・ジヨン』のほかにも、フェミニズムの入門書としてぴったりの小説をいくつか紹介します。
・ヴァージニア・ウルフ、杉山洋子訳『オーランドー』
エリザベス一世統治下のイギリスで生まれ、360年を生きた主人公オーランドー。男であったり女であったりしながら恋愛遍歴を重ね、時空と性をかけぬけるファンタジ―伝記小説。映画もおすすめ。

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・エレナ・フェッランテ、飯田亮介訳『ナポリの物語Ⅰ〜Ⅳ』
戦後、暴力と貧困に満ちあふれた下町ナポリで生まれ育った二人の少女が奏でる大河小説。女として生きるうえでの裏切りや欺瞞、そして輝きがこれでもかと迫ってきます。夜ふかし必至。


