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リスクコミュニケーションという難題にも向き合った西浦 HAJIME KIMURA FOR NEWSWEEK JAPAN

その反省を踏まえてか、西浦が強調したのは高いリスクを背負わされる人々の存在だった。このままでは、感染が広がったロンドンの状況に近くなると険しい表情で言う。その真意はこうだ。

「いま感染が広がっているのはホストといっても駆け出しのホスト、まだ稼げず寮の中で必死に生活しているようなホストたちです。ロンドンでも感染が初期は(高所得の)ハイクラスから広がり、徐々にアンダークラス、貧しい人たちの間で伝播するようになった。東京で起きているのは、その兆候ではないかとも考えられる。決していい兆候ではない」

西浦の元には、彼の「予測どおり」7月上旬に東京で100人以上の感染者が出たという声が届くという。現実と西浦のモデルでは、前提となる条件が異なっており、本人に言わせれば、「予測どおり」ではない。それにもかかわらず、予測が当たったか、外れたかばかりが本人の知らないところで注目される。「データ分析バカ」を自任する西浦が、なぜリスクコミュニケーションまで担わなければいけなくなったかという点については検証が必要だが、現状で最も必要なのは彼のモデルをどう活用するかだ。外野の喧騒よりも、大事なのはやはり現場である。

「誰かが必要としている」

新型コロナ禍に楽観的なシナリオは期待できそうもない。人と人の往来がある以上、完全な封じ込めはもはや期待できず、ワクチン開発も先が見えているとは言い難い。

一方で、2度目の緊急事態宣言はオプションの1つにはなり得ても、社会に与えるダメージが大きい。ただでさえ、たった1度の緊急事態宣言で多くの雇用が失われ、経済的な危機の中で健康リスクにさらされる人々が出た。

「ステイホーム」ができるというのは、やはり恵まれた人々なのだ。家にいられない、家にいるほうがハイリスクであるという人たちも新宿に吸い寄せられるように集まってくる。

新宿2丁目新千鳥街の一角にあるわずか数坪のバー「香まり」──。一ノ瀬文香はタレント業とバーの経営者という2つの顔を持つ。「異セクシュアリティー交流」を掲げる小さな店は、まさに「密」な状況が生まれやすいが、店員のマスク着用、そして換気の徹底などを心掛けながらの再開を決めた。彼女は6月の営業再開を前に従業員にメールを送り、対策の徹底を呼び掛けた。

メールを一部抜粋する。

《【香まり コロナ対策】

・お客さんが来店されたら「アルコールが入っているウエットティッシュで手を拭いてもらう」か、「お手洗いの洗面所に備え付けてあるせっけんで手を洗ってもらう」、どちらかをすることをお願いしてください。

・(通常時と同じですが)換気のために営業中、必ず入り口のドアを開けっ放しにしておいてください。その上で空調はエアコンで調整してください。また、換気扇2カ所は24 時間、稼働させておいてください。》

それでも店を続ける理由
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