Amy Lv Casey Hall
[鄭州 (中国河南省)27日 ロイター] - 中国河南省にあるフェン・ツァンジュン氏の工場では、年間200万カラットの人工ダイヤモンドを生産している。そのうち、約70パーセント(%)が宝飾品向けだ。
だがフェン氏は、中国の人工ダイヤモンド産業の将来は、半導体やAIサーバーなどハイテク用途向けの先端材料供給にあるとみている。
「機能性材料に使われる製品の割合を2030年までに50%超に引き上げる一方、宝飾品向けの割合は最大でも30%まで減らしたい」とフェン氏は語った。
世界の供給量の約半分を占める中国の人工ダイヤモンド生産者は、競争の激化と価格の下落圧力を受け、宝石以外の分野に目を向けている。
米中の技術覇権争いにおいて、人工ダイヤモンド産業の戦略的重要性が一段と増す可能性がある。人工ダイヤモンドが半導体やAIインフラの放熱(熱管理)に広く使われるようになれば、中国の生産面での優位性が、米国にとって新たなサプライチェーン上の弱点として浮上しかねない。
「この転換は今や、ダイヤモンド業界を規定する構造的な出来事であり、世界の技術サプライチェーンに直接影響を及ぼすものだ」。コンサルティング会社ケン・リサーチのエンゲージメントマネジャー、マナン・ゴエンカ氏はこう述べた。
企業やアナリストによると、半導体、放熱、量子技術などの分野からの需要が、同産業の次の主要な成長エンジンになり得る。人工ダイヤモンドは、先端的な電子機器やコンピューティングシステムの性能を高められる特性が評価されている。
AI技術の浸透により、データセンターの処理能力に対する需要は急増している。国際エネルギー機関(IEA)は2025年の報告書で、データセンターの電力消費量は、AIが主な押し上げ要因となって30年までに2倍超の約945テラワット時に達する見通しだとしている。これは日本の年間電力消費量にほぼ匹敵する規模だ。
<AIが生む商機>
アナリストがより短期的に商機があるとみているのが、放熱の分野での活用だ。半導体材料として広く商業利用するには、なお時間がかかる見通しだという。半導体用途は、切削・掘削工具に使われるダイヤモンドよりもはるかに高い純度と厳格な製造基準が求められる。
だが、AIコンピューティングが発する熱の増加を背景に、世界有数の大手テクノロジー企業が人工ダイヤモンドの半導体用途への活用に関心を寄せ始めている。
中国メディアによると、華為技術(ファーウェイ)と台湾積体電路製造(TSMC)は半導体冷却向けの人工ダイヤモンド活用を検討しており、レノボはダイヤモンド・銅の冷却材を使った一般消費者向けノートパソコンを中国で発売した。
インテルのリップブー・タン最高経営責任者(CEO)は6月、半導体グレードのダイヤモンドウエハーを開発する人工ダイヤモンドメーカー、ダイヤモンド・ファウンドリーに個人として出資したと明らかにした。
ファーウェイ、レノボ、インテルはコメント要請に応じなかった。TSMCはコメントを拒否した。
一部の中国の生産者は、需要を見越して投資に動き始めている。河南力量鑽石は、宝石グレードのダイヤモンド生産拡大のために当初調達した10億元(235億円)を、新たな機能性ダイヤモンド事業に振り向ける計画だと、6月の開示資料で明らかにした。
中国科学院寧波材料技術・工程研究所によると、中国の研究者が4月に開発したダイヤモンド・銅の冷却モジュールは、半導体モジュールからの熱伝達を80%改善し、半導体の性能を10%高めた。
採用が広がれば、半導体の過熱を防ぐために使われる放熱材料の市場が様変わりする可能性がある。ドイツのヘンケル、米化学大手ダウ、日本の信越化学工業は、半導体からの放熱に使われる製品を販売している。ダイヤモンド製のヒートスプレッダがAI半導体やデータセンターに広く採用されれば、既存の一部材料と競合する可能性がある。
ヘンケル、ダウ、信越化はコメント要請に応じなかった。
ダイヤモンド関連製品の開発は中国国外でも進んでいる。デビアスの人工ダイヤモンド・先端材料事業エレメント・シックスと日本のオーブレーは6月、3インチの単結晶ダイヤモンド結晶の生産技術を確立し、米オレゴン州で2インチウエハーの生産準備を進めていると発表した。
スペイン政府は、トルヒーリョにあるダイヤモンド・ファウンドリーの工場に7億5300万ユーロ(約1320億円)を投資している。この工場は人工ダイヤモンドウエハーを製造する予定で、完成すれば半導体製造用の材料であるダイヤモンド基板の欧州初の大規模生産拠点となる。
10月上旬には、米放熱技術企業フロア・システムズが、ダイヤモンド製の熱拡散板を組み込んだ多段式コールドプレート「リキッドジェット・ダイヤモンド」を発表した。
「宝飾用ダイヤモンド小売事業は年間約1000億ドル規模だが、技術・産業分野での可能性や潜在力はそれを大きく上回り得る」。独立系ダイヤモンドコンサルタントのロバート・ブーケ氏はこう述べた。
<ダイヤモンド製造機>
フェン氏の工場は、河南省に集まる数百の人工ダイヤモンド生産者の一つだ。同省は中国の人工ダイヤモンド生産量の80%を占める。
人工ダイヤモンドは、天然ダイヤモンドが形成される高温・高圧の条件を再現する装置で作られる。採掘されるダイヤモンドと物理的に同一だ。
フェン氏の工場にある装置は、6日間で120カラットの原石を生産できる。天然ダイヤモンドであれば、数十億年かかる過程だという。
フェン氏は、1台当たり約300万元、重さは100トン超のこの装置を550台保有。2019年の事業開始以来、年間生産量を10倍に増やし、25年には200万カラットに達した。これはデビアスの25年の生産量の約9%に相当する。
中国政府はすでにこの技術を輸出管理体制に組み込んでおり、24年に関連機械や主要部品を規制対象とした。25年にはさらに広範な人工ダイヤモンド製品を規制リストに加えたが、昨年10月に成立した米中合意に基づき、施行は1年延期された。
「人工ダイヤモンドは半導体、レアアース(希土類)、先端製造業を巡る戦略的な貿易政策の議論の一部に、今後一段と組み込まれていく可能性がある」と前出のゴエンカ氏は述べた。
中国が人工ダイヤモンド生産を急速に拡大したことで価格が下落し、生産者はより付加価値の高い用途を探る必要に迫られている。
フェン氏によると、粗利益率は宝石グレードのダイヤモンドが30─40%であるのに対し、工業用ダイヤモンドは約50%だ。同氏は生産量をさらに増やすのではなく、より付加価値の高い工業用途に生産をシフトする計画だ。
人工ダイヤモンドの先端工業用途での利用が商業的に伸びる可能性は依然として不透明で、過剰生産能力が生じるリスクもあるが、生産者は楽観的な見方を崩していない。
「それは10億元、あるいは1兆元規模の市場になる。われわれは従来型の用途を置き換えるため、次世代用途への戦略的な拡大を進めている」とフェン氏は語った。