HIVや神経疾患にも
遺伝子治療の研究では、ウイルスは既に最も重要なツールの1つになっている。ウイルスを使えば、ヒトの細胞に治療効果のある遺伝物質を送り込めるからだ。
遺伝物質の「運び屋」に改変されたウイルスは「ウイルスベクター」と呼ばれ、鎌状赤血球症、嚢胞性線維症、筋ジストロフィー、遺伝性眼疾患など種々の遺伝性疾患の治療に用いられているか研究段階にあると、米食品医薬品局(FDA)は報告している。
ただ、既存のウイルスベクターには限界がある。免疫反応を引き起こすこともあるし、標的となる組織に確実に遺伝物質を送り込めないこともあるからだ。
そこで期待されるのが、AIを使い、より精密で高効率かつ安全なウイルスベクターを設計することだ。遺伝子治療の研究者にとって、AIの魅力はスピードだ。何千もの設計を1つずつ試すのは気の遠くなる作業だが、あらかじめAIに有望な候補を絞り込ませて実験室での検証に進めば大幅に時間を短縮できる。
米国立衛生研究所(NIH)の報告書によると、HIV感染症(エイズ)と神経疾患の治療にも、AIが設計したウイルスベクターを使う可能性が検討されている。HIV感染症は複数の薬で増殖を抑える治療が基本だが、ウイルスベクターを使って感染細胞に特異的に遺伝物質を送り込み、体内から完全にHIVを排除すれば、根治が期待できる。
一方、パーキンソン病やハンチントン病、一部の認知症などの神経疾患では、脳を守るバリアである血液脳関門に阻まれて、脳内に治療薬を届けられないことが大きなネックになっている。だがAIを活用すれば、このバリアを突破するウイルスベクターの開発も夢ではなさそうだ。