Tamiyuki Kihara
[東京 3日 ロイター] - 日米が協調して円買い介入をした背景には、円安を巡る共通の問題意識があった。事情に詳しい政府関係者によると、日本は今年に入り、円安の進行や長期金利上昇を巡る懸念を米国から繰り返し伝えられていた。円安・債券安に苦しむ日本側も年金基金による円資産への投資拡大を検討すると発信するなど対策を講じてきたが、市場の流れは変わらず、最終的に両国は1998年以来となる協調介入に踏み切った。一連の動きは、今後の日銀の利上げ判断にも影響を与える可能性がある。
<「金利上昇は看過できない」>
「まさに無秩序な動きに対しては断固たる措置を取る。それは実行される」。片山さつき財務相は3日朝、記者団の取材にこう述べた。米国のベセント財務長官も同時に談話を発表し、7月31日に日米が実施した協調介入について「円相場の無秩序な動きに対抗するものだ。円の大幅な過小評価を是正するための日本の断固たる市場・金融政策措置を強く支持する」などとした。
日米による円買いの協調介入は、アジア通貨危機後の1998年以来だ。なぜ日米は「伝家の宝刀」を抜いたのか。
事情に精通する関係者がロイターの取材に応じた。米国は今年に入り円安に対する懸念を再三にわたって日本政府に伝達した。懸念は高市氏が掲げる「責任ある積極財政」にも及び、長期金利の上昇を抑制するよう求めたという。
別の日本政府関係者によると、ニューヨーク連銀が1月下旬に「レートチェック」を実施して為替が円高に一時振れた際、米側は円買い介入も検討していた。為替取引の水準を金融機関に問い合わせるレートチェックで円安をけん制すること自体、異例の対応だった。
「為替操作は許さない」というのが米国の基本的なスタンスだ。それは昨年9月の日米財務相共同声明でも確認した点でもある。それでも米国が動こうとしたのは、米金利への波及を恐れたためだと、前出の政府関係者は解説する。トランプ米大統領は秋の中間選挙に向けて米国内の物価上昇に苦しむ。さらなる金利上昇は看過できないというわけだ。関税を引き上げたにも関わらず、円安で価格競争力の上がった日本との貿易不均衡は改善しないという事情もあったという。
<「日米通貨同盟の完成形」>
米国からメッセージが届く中で、日本側は円安と金利上昇に歯止めをかけようとあの手この手を繰り出した。片山氏は7月、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の運用方針をめぐり、基本資産構成割合(基本ポートフォリオ)見直しの可能性を示唆。新NISA(少額投資非課税制度)の投資対象に日本国債を追加するための検討を加速するとも表明した。前出の関係者の1人は、いずれの発信も金利の抑制を求める米の意向をくみ取ったものだったと説明した。
ただ、それでも円安・債券安のトレンドは変わらなかった。高市早苗政権が17の成長分野に官民で370兆円の投資を振り向けることを決め、飲食料品の消費税減税を進める中で、金融市場は財源を心配した。日米が行き着いたのが、28年ぶりの協調介入だった。
「介入はセカンドベストだが、これ以上円安が進むのは米にとって最もよくないシナリオだ。何も喜んで介入したわけではない」。前出の関係者はこう強調した。確かに片山氏によるGPIF関連の発信後、日本の長期金利は高止まりの状況にあった。円相場も円高に振れることこそなかったものの、大きく下落はしていない。経済官庁幹部は7月下旬、「どんどん下落するようなら介入するが、タイミングは難しい」と述べていた。
記者団の取材に応じた片山氏は3日朝、米から日本の金融政策について要請があったかとのロイターの質問に、「日米のミクロ・マクロの経済についてはいろんな話をしている。詳細は様々な影響を与えるので申し上げるのは控える」と答えた。
通貨政策を取り仕切る三村淳財務官は協調介入の発表後、「いわば日米通貨同盟の完成形だ」と記者団に解説した。
<「秋の利上げは不可避だ」>
一連の「オペレーション」はまだ終わっていない━━前出の関係者はこう話す。最大の注目点は、日銀による政策金利の追加利上げのタイミングだ。ベセント財務長官はかねてから日銀に利上げを促すような発言をしてきた。
日銀は7月末の金融政策決定会合で1%程度とした金利を維持したが、植田和男総裁はその後の記者会見で、物価が目標の2%を上振れていくリスクは無視できないとの認識を示した。「ビハインド・ザ・カーブ(後手)にならないように政策運営していく」と語った。
関西みらい銀行の石田武ストラテジストは「9月の次の日銀決定会合での利上げ可能性が意識され始めている」と指摘。「次回利上げの時期は12月をメインシナリオ、10月をサブシナリオとしてきたが、それを前倒しする可能性も出てきた」とみる。
政府関係者の1人は「ハト派的だと思われてきた植田氏のトーンはだいぶ変わってきた」とし、9月、10月のいずれかの決定会合で、追加利上げが決まるとの見方を示した。「秋も利上げが見送られる、と市場に思われた時点で協調介入の効果は消える。利上げは不可避だ」
(鬼原民幸 取材協力:杉山健太郎、竹本能文、木原麗花、山崎牧子 編集:久保信博)