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ハードパワーでは、わが国は誰にも負けんぞ──ドナルド・トランプ米大統領の外交政策で目立つのはハードパワーへの揺るぎない自信だ。筆者の元同僚である故ジョセフ・ナイが名付けた「ソフトパワー」を完全に軽視している。民主党クリントン政権の高官だったナイは、アメリカには諸外国が喜んでまねしたくなるような特質がたくさんある、それこそがこの国のソフトなパワー、すなわち「好かれる力」だと定義付けた。このパワーこそ、他国に自分たちの思うように行動させる力なのだ、と。

筆者は根っからのリアリストだから、ハードパワーの重要性は熟知している。だがウラジーミル・プーチン大統領のロシアのように、ハードばかりで(ほとんど)ソフトがないのも困る。理想を言えば、国家は両方を十分に備えていたい。こちらのソフトパワーが豊かであれば、諸外国は自然とこちらの望みどおりに動いてくれるから、頻繁にハードパワーを行使する必要はなくなる。

生前のナイは、アメリカには硬軟のパワーがそろっている、外交ではそれが強みだ、だからアメリカの未来は明るいと信じていた。ただし晩年には、さすがの彼もソフトパワーの衰えを憂慮し始めていた。

ソフトパワーの重要性を説いた故ジョセフ・ナイ
ソフトパワーの重要性を説いた故ジョセフ・ナイ RICK FRIEDMAN-CORBIS/GETTY IMAGES

2期目のトランプ政権には、必要なのはハードパワーだけという信念があるらしい。関税を外交の武器とし、連邦最高裁がそれを「違法」と認定しても平気で無視している。6つ以上の国に軍事力を行使し、カリブ海や太平洋では今も麻薬密売の「容疑」だけで外国人を殺し続けている。

トランプは他国の指導者たちを何度も「弱腰」と非難してきた。ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領に対しては「君には切れるカードがない」と言い放ち、和平交渉でロシアに譲歩しろと迫った。キューバを軍艦で取り囲んで国民生活を一段と悲惨なものにし、最後には政権を屈服させるつもりでいる。

そしてイランだ。外交的な協議を打ち切って一方的に、無用な戦争を仕掛けた。イランの体制はすぐに崩壊し、アメリカに都合のいい政府ができるという誤った前提に基づく行動だった。

強者と弱者に二分する世界