Tamiyuki Kihara

[東京 29日 ロイター] - 高市早苗首相が就任後初めて取りまとめる「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)」の原案が明らかになった。毎年、時の政権の意向を色濃く映す方針だけに、その内容はマーケットからも注目を集める。今回、特に目立ったのが「市場の信認」への言及だ。複数の政府関係者への取材から骨太の方針ににじむ政権の思惑を読み解くと、高市氏が首相就任以来、念頭に置く二つの「影」が見えてくる。

<骨太でこだわった三つの点>

ロイターが入手した原案には、「市場の信認」との表現が10回ほど登場する。昨年、石破茂前首相が取りまとめた同方針が1回しか触れなかったことを考えると、いかに高市氏がこの表現にこだわったのかが分かる。

方針の決定過程を知る日本政府関係者は、高市氏が最もこだわった点を三つ挙げた。一つは自身の金看板である「成長投資」と「危機管理投資」を最重要政策に位置付けること。もう一つは2月の衆院選で掲げた消費減税に触れること。最後に、「市場の信認を確保する姿勢」を強調することだ。

首相官邸関係者は、高市氏が積極財政的な政策を前面に掲げる一方で、為替や国債市場の動向に気を揉んできたと語った。「政権発足時に定着した積極派のイメージはなかなか取り除けない」としつつ、市場との対話を重視するメッセージの発信に注力してきたと説明。別の政府関係者は「市場の混乱は政権批判にもつながる。首相は自身への批判を最も恐れているのではないか」と述べた。

<にじむ信認確保への工夫>

確かに高市政権下の予算編成を振り返ると、市場の信認を得ようとした「形跡」が見て取れる。

2026年度一般会計当初予算は122兆円超と過去最大に膨み、新規国債の発行予定額は29兆円余りと前年度を上回る一方、公債依存度を24.2%と1998年度以来の水準に抑えた。予算案を審議する2月の特別国会冒頭でも、「財政規律にも十分配慮した財政政策こそが、高市内閣の『責任ある積極財政』だ」とも強調して見せた。

6月に成立した今年度補正予算にも「工夫」があった。長引く中東情勢の悪化を受けた物価高騰対策のため3兆円強を計上したものの、財源の特例公債(赤字国債)は前年度分の未発行となる範囲にとどめるというロジックを採用。前出の政府関係者は「赤字国債を財源とすることに変わりはないが、市場はそこまで乱れなかった」とし、政府の説明に一定の効果があったとの認識を示した。

<トラス・ショックと財務省の影>

市場を気遣うこうした姿勢は、高市氏が念頭に置く二つの「影」を浮き彫りにする。

一つは2022年に英国で国債・通貨が急落した「トラス・ショック」だ。日本の財政見通しへの懸念が大きく高まれば、自身の政策を推し進めるどころかトラス英元首相のように退陣にすら追い込まれかねない。政府関係者は高市氏がトラス氏と重ねられることに神経をとがらせていると説明。市場との対話姿勢を強調することで、同じ轍を踏まないよう意識しているとも語った。

もう一つの「影」は財務省だ。財政規律に重きを置く同省は、政権発足前から高市氏にとって「抵抗勢力」と位置付けられていたとされる。前出の関係者は骨太の方針に盛り込まれる積極財政的な政策を念頭に、「高市氏は財務省が政策をつぶそうとしてくるのではないかと疑っている。『そんな攻撃には屈しない』という思いが市場の信認を重視する姿勢にもつながっている」と分析した。

ただし、今後も継続的に「市場の信認」を確保できるのかは不透明だ。目の前には肝いりの重要分野への投資に加え、防衛費の増額、消費減税など巨額の財源を必要とする政策が待ち受ける。投資の一部を政府債務残高とは別枠の「つなぎ国債」で賄うにしても、その妥当性を市場がどう判断するかは見通せない。

高市政権は財政運営の目標に「債務残高対GDP比の安定的低下」を掲げたが、前出の関係者は「金利上昇によって国債の利払い費がかさめばかさむほど、数値は悪化し自身の首を絞めることになる」と指摘した。「高市氏は結局、ずっと『市場の信認』に縛られることになる」

(鬼原民幸 編集:橋本浩)

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