Kentaro Sugiyama
[東京 29日 ロイター] - 沖縄地方の梅雨明けを皮切りに日本列島は夏を迎える。欧州では記録的な熱波が続き、日本でも極端な高温への警戒が強まっている。通常、夏場は飲料や冷房機器、レジャー関連など季節需要が膨らみやすいが、「暑すぎる夏」は景況感の下押し要因として語られる場面が目立ってきた。
外出控えで外食や旅行などのサービス消費が鈍る一方、建設や物流では作業効率の低下や熱中症対策費の増加が避けにくく、企業の運営コストもかさむ。猛暑による家計・企業の負担増が実質所得や収益を圧迫し、景気の底堅さを損なうリスクが浮上している。
<変わる「猛暑」>
今年は気象庁が40度以上の日を「酷暑日」と定義して初めて迎える夏となる。2025年夏の日本の平均気温は統計開始以降で最も高かったが、23年、24年もそれまでの最高記録に並ぶ暑さで、記録的な高温が続いていることも今夏の警戒感を高めている。
5月の景気ウオッチャー調査では、2─3カ月先の景況感について季節商品の販売増加やタクシー利用といったサービス需要を見込む声があった一方、過度な暑さへの警戒も目立った。南関東のゴルフ場では「8月は猛暑により厳しい運営環境が予想される」と懸念。東海地方のスーパーでは午後の客足鈍化、北陸地方の観光型旅館では旅行控えへの不安が聞かれた。
気温は一定の水準を超えると、景気下押し要因として作用する。第一ライフ資産運用経済研究所の星野卓也主席エコノミストは「気温が35度付近までは消費が増えるが、それを超えると減少に転じる傾向がみられる」と指摘する。40度以上の酷暑は、需要喚起よりも外出や労働を制約する要因になり得る。
家計への影響も無視できない。エアコン使用の増加に伴う電気代負担は、家計にとって可処分所得を圧迫し、レジャーや外食、衣料品などの選択的消費を抑える圧力となる。政府による電気・ガス代の補助金は家計負担を一時的に和らげるものの、短期的な緩和策にとどまり、補助縮小時には家計の負担感が再び強まる可能性がある。
<対策進める企業>
企業の間では、猛暑を含む気候変動が経営課題として位置付けられつつある。気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)提言の流れを引き継いだ開示枠組みの広がりも背景に、気温上昇が収益や事業運営に及ぼす影響をシナリオ分析などで評価する動きが広がっている。
大成建設グループは2025年度の統合報告書で、夏季の平均気温上昇による生産性の低下や、労働環境悪化に伴う担い手減少の加速をリスクとして言及した。建設業は人手不足と資材高がすでに重荷となっており、猛暑による作業効率の低下は工期の長期化や労務費上昇を通じ、住宅・インフラ投資のコストを一段と押し上げる可能性がある。ゼネコン各社は、熱中症対策や環境改善など、安全確保の強化を急いでいる。
猛暑による労働制約は、個別業種にとどまらない。医学誌ランセットが毎年公表する気候変動と健康に関する国際報告書「ランセット・カウントダウン」によると、日本では2024年に熱ストレスで約14億2000万時間の潜在的労働時間が失われた。潜在的な所得損失額は約494億ドルに達したと推計されている。
物流業界も対応が進む。ヤマトホールディングスは、気温上昇による従業員の健康リスクや物流拠点の光熱費増加などをリスクとして挙げるほか、台風の激甚化や線状降水帯による豪雨など異常気象が売上減少や設備修繕費の増加を招く可能性も試算している。物流費は幅広い商品・サービス価格に波及しやすく、気温上昇への対応コストは最終的に企業間取引や小売価格の押し上げ要因となるリスクがある。
飲食料品メーカーでは、原材料となる農作物や水産物への打撃が懸念される。キリンホールディングスは、日本に限定せず、気候変動の影響をシナリオ分析で評価している。対策が不十分だった場合、2050年時点で大麦・ホップ等の主要原料農産物の収量や水リスクによる影響は避けられないと試算している。食品価格は消費者の体感物価に直結するだけに、気候変動による原料価格の上昇は家計の節約志向を強める要因になりやすい。
物価上昇が賃金の伸びを上回れば、家計の実質所得は目減りし、消費の抑制につながる。企業にとってもコスト増は収益を圧迫し、設備投資や雇用の抑制に波及するおそれもある。猛暑は需要と供給の双方から日本経済を制約するリスクとして意識され始めている。
(杉山健太郎 編集:橋本浩)