Tamiyuki Kihara

[東京 22日 ロイター] - 消費減税をめぐる議論が大詰めを迎えている。与野党の実務者会議は、食料品の税率を2年に限り1%とし、中低所得者世帯に1%分を給付する「実質ゼロ案」を検討中だ。そもそもこの案はどのような経緯で俎上に載ったのか。複数の与野党・政府関係者への取材から、ある国会議員の発言によって、高市早苗首相と政府内の思惑が変化していく様が浮かび上がった。

<事態動かした「質疑の瞬間」>

4月8日午後、衆院第2議員会館の地下にある与党政策大会議室。「社会保障国民会議」の5回目となる実務者会議では、非公開でレジシステムメーカーからのヒアリングが行われていた。「税率としてゼロ%を入力できないプログラムを元々入れており、これを改修する必要がある」「基幹システム・会計システムなどでも税率変更を受けた改修が必要になり、12か月は必要になる」。メーカー側からは、高市氏が掲げる税率ゼロ%には長期の準備期間を要するとの意見が相次いでいた。

出席した複数の関係者によると、会議終盤の質疑応答で、公明党を代表して出席した参院議員がメーカー担当者にこう発言した。

「税率をゼロ以外の整数にした場合、改修期間はどのくらい短縮できるのか」

一部のメーカー担当者が「半分くらいに短縮できるかもしれない」と答えると、会議室内は「そんなに短くなるのか」と、どよめいたという。ある出席者は「あの質疑応答の瞬間、ゼロではなく整数への減税しかないと思った」と証言した。

公明関係者はロイターの取材に「確かに党の代表者が質問した」と認めた上で、「1%に誘導する趣旨の質問ではなかった」とコメントした。

<準備1年なら「首相も諦める」>

その会議以前、政府内の思惑は入り乱れていた。高市氏は2月の衆院選で主要政策として掲げたゼロ%にこだわり、再三にわたって早期の実現に向けた調整を担当者に求めた。政府関係者は「いくらゼロにするには時間がかかると説得しても、『国民の支持を得た政策だから実行してほしい』と言われるだけだ」とも漏らしていた。

一方で、高市氏のそうした意向を逆手に取る動きが政府内の一部にあった。消費減税には時間がかかるが、給付付き税額控除なら早期に制度設計が可能。「給付付きの検討が減税議論を追い越して進めば、消費税に手をつけなくても済むかもしれない」。関係者の一部では4月の会議前、「システムメーカーが『改修に1年かかる』と言ってくれれば、首相も減税を諦めるはずだ」ともささやかれていた。

4月8日の会議での質疑は、こうした高市氏、関係者双方の思惑を「中間地点」へと導いていった。

<官邸発の「実質ゼロ案」>

ただ、課題は消えなかった。いくら低率への減税を実現しても、ゼロ%が実現しなければ高市氏が「公約違反」として批判されるリスクが残るからだ。一方、政府内の一部でも、減税後の税率を少しでも上積みするための検討が始まっていた。

こうした事態に一石を投じたのが、首相官邸関係者が持ち出した一つの制度設計だ。税率を2年間に限って1%とし、中低所得者世帯に1%分を給付する。国民の痛税感を和らげつつ早期の減税実施を図る「実質ゼロ案」だ。実務者会議の議長を務める自民党の小野寺五典・税制調査会長も案を受け入れ、高市氏のもとに複数回にわたって足を運び、方向性を固めていった。

「私はやはり迅速性、十分性は確保してほしいなと考えている」。高市氏は6月17日夜、主要7カ国(G7)首脳会議のために訪れたフランスでの記者会見で、「実質ゼロ案」についてこう述べた。関係者の間では「首相が案を容認した」と受け止められた。

<最終合意は「出たとこ勝負」>

複数の官邸・政府関係者によると、高市氏はいまも「国民会議で野党側の支持を得ること」を強く求めている。仮に国民会議で与野党が決裂すれば、来る法案審議で高市氏が「公約違反だ」と責められるのは必至だ。関係者の一人は「首相は批判を避けたいとの思いが強い。そのためには、国民会議でまとめた案を首相が追認する形をとる必要がある」と述べた。

とはいえ、「実質ゼロ案」には野党をはじめ自民党内にも反発が残る。国民民主党の磯崎哲史参院議員は22日の参院予算委で、いずれの消費減税策も導入までに時間を要すると指摘し、「政策に固着するのではなく、柔軟な考えをもってほしい」と求めた。

次の実務者会議は24日に開かれる予定だ。与党側は月内にも方針を取りまとめたい考えだが、会議を担当する関係者の一人は「最終的に合意できるかはまだ分からない」と語った。「ここからは出たとこ勝負だ」

(鬼原民幸 編集:橋本浩)

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