エルツォフによれば、「ロシア政府や軍の究極の目標はアメリカやNATOの影響を少なくとも可能な限りそぐことだ。それには緩衝地帯を支配する必要があるが、トランプの掲げるアメリカ第一主義のおかげで、この作戦を遂行しやすくなった」。
エルツォフのみるところ、ロシアは緩衝地帯を重要度によって4層に分類している。第1層はウクライナ、ベラルーシとカザフスタンの大部分。これはノーベル賞作家アレクサンドル・ソルジェニーツィンによる「ロシアの大地」の定義に合致する(ソ連時代のソルジェニーツィンは反体制派だったが、後にプーチンの熱烈な支持者となった)。第2層はカフカス(ロシア南東地域、アルメニア、アゼルバイジャン、ジョージア)、第3層はソルジェニーツィンが「ロシアの弱点」と呼んだ中央アジア(キルギス、タジキスタン、ウズベキスタン、トルクメニスタン)だ。
プーチンの影響力は既にこれらの国の大半と、(間接的な形で)旧ソ連圏のハンガリーとポーランドに及んでいる。だが欧米にとって深刻な局面となるのは、プーチンが第4層の地域であるバルト3国(ラトビア、リトアニア、エストニア)に触手を伸ばしたときだろう。バルト3国はNATO加盟国だが、ロシア系の住民が多い。「問題は加盟国がどんな攻撃を受けた場合にNATO条約第5条の定める集団的自衛権が行使されるか」だとエルツォフは言う。「ロシア系住民が圧倒的に多い地域で、ロシア系が武装蜂起したとして、そのときアメリカは反撃に出るだろうか」
<本誌2018年12月11日号掲載>
米・イラン戦争で変わる地域紛争の「大前提」/石油危機を恐れるべき理由