Lucy Raitano Iain Withers Elizabeth Howcroft
[ロンドン 6日 ロイター] - 欧州の個人投資家の間で、大きな期待を集める米宇宙開発企業スペースXの新規株式公開(IPO)の分け前を手に入れようと争奪戦が繰り広げられている。ただ機関投資家のような「資源」を持たない個人にとって、この取引は足元をすくわれる展開になりかねない、というのが一部専門家の警告だ。
実業家イーロン・マスク氏が率いるスペースXは、750億ドルの資金調達を計画している今回のIPOの最大30%を個人投資家に割り当てることを検討中。個人投資家枠としては異例の大きさで、英国、ドイツ、デンマーク、フランス、オランダ、ノルウェー、スペイン、スウェーデン、スイスでの提供が計画されている。
英国では既に8つのオンライン投資プラットフォームが国内の顧客に対してスペースXのIPOへの募集を開始した。2013年の当時国営だったロイヤルメールの上場以来、同国で最も重要なリテール向け案件とみなされており、停滞する投資文化を再び活性化させる起爆剤になるのではないかとの期待がある。
BNPパリバのグローバル株式資本市場テクノロジー担当責任者を務めるイガル・エルハラール氏は「個人投資家の関心は他のどの案件とも異なり、投資家は『夢』を共有したがっている」と語った。
欧州のIPOは発行額ベースで2021年以降落ち込んでおり、欧州連合(EU)のデータに基づくと、域内家計資産に占める金融証券の割合はわずか17%で、米国の43%と比較すると極めて低い数字だ。
ただ学会関係者3人と消費者権利擁護活動家の1人は、赤字経営のスペースXが1兆7500億ドルという高過ぎる評価額となっている点に注意を促している。また5%未満という浮動株の少なさや、議決権の欠如もリスクとなる恐れがある。
マスク氏は4日、スペースXの収入見通しについて「かなり良い」と感じており、収入は「はるかに予測可能になった」と述べている。
<落とし穴>
レディットなどの投資フォーラムやプラットフォームでの意見は分かれており、熱狂的な層がいる一方で、高い評価額やマスク氏のリーダーシップを懸念する声も聞かれる。
ハーグリーズ・ランズダウンによれば、4月にスペースXの上場が話題になって以来、3万5000人の顧客がIPOアラートへの関心を登録したという。
英フィンテック企業レボリュートは投資家向けに作成した株式販売の専用ウェブページで、新規顧客獲得を狙ってスペースXのロケットの打ち上げ動画を全画面形式で掲載。同時に、応募しても1株も受け取れない可能性があるといったリスクも説明している。
ロンドンのベイズ・ビジネス・スクールのメジアン・ラスファー教授(金融学)は、企業の真の価値を判断するためのデータベースや財務アナリストを抱える機関投資家と違って、個人投資家は「非常に大きなリスク」を背負うことになると指摘する。
ラスファー氏は「スペースXは巨額の赤字を出しており、公開価格は株価売上高倍率(PSR)で100倍という、極めて高い水準だ。通常は2倍から3倍程度なら非常に良好とされる」と付け加えた。
<買い手呼び込む前例に>
スペースXのIPOを巡っては、英国に拠点を置くマレックス・フィナンシャルが公募プラットフォームを運営し、AJベル、CMCマーケッツ、eトロ、フリートレード、インタラクティブ・ブローカーズ、インタラクティブ・インベスターを含む計8つのリテールプラットフォームがマレックスを通じて、購入希望の個人投資家からの注文を幹事銀行団に送信できるようになっている。
英国のリテール投資プラットフォーム、プライマリービッドのマイク・クームズ最高執行責任者(COO)は、この新しいアプローチが、英国の買い手をターゲットとする他の外国企業にとっての前例になる可能性があるとの見方を示した。
こうした仕組みに関与しているリテールプラットフォームの1社の幹部は、一般の投資家が流通市場でしか株を買えないのではなく、IPOへ早期にアクセスする機会を得られるのは心強いことだと語った。
eトロは最低申込額が750ドルだと発表し、ハーグリーズ・ランズダウンは1000ポンド(1334ドル)を設定している。
BNPパリバのエルハラール氏は、IPOにおける個人投資家の参加はテクノロジー企業にとって「新たなこだわりのターゲット」となっており、以前は注文全体のせいぜい15%だったのが、今やその倍にまで膨らんでいると説明した。
英国では規制面で個人投資家がIPOに参加しやすいよう後押しされているものの、世界的に新規上場の動きが減速する中で、選択肢となる案件は不足している。
クームズ氏によると、21年の英国における最大手IPOの15件のうち、個人投資家枠が含まれていたのはわずか1件だった。それが料理宅配サービスのデリバルーで、プライマリービッドを通じて15億ポンドのIPOのうち5000万ポンド分を個人投資家に提供したが、株価は取引初日に最大30%急落した。