Atsuko Aoyama
[東京 5日 ロイター] - 政府の「退避勧告」を伴う為替介入からわずか1カ月強で、ドルは再び160円付近に回帰してきた。市場で介入警戒ゾーンとみられる水準に差し掛かり、政府の防衛ラインを巡る議論が活発化している。足元で口先介入は強まっておらず、市場を油断させて円売りを拡大させることで介入効果を高める意図があるとの疑心暗鬼も広がっている。
<防衛ライン巡り疑心暗鬼、追い打ち介入の思惑も>
為替を巡る政府の防衛ラインを巡り、市場の思惑は交錯している。円安けん制や日銀の利上げ観測の高まりを通じて「160円を超える円安は何とか止めたいのではないか」(みなと銀行資金証券部ストラテジストの苅谷将吾氏)との見方が広く聞かれる一方、162円に向けて大きく円安が進むことを阻止するのが狙いとの声もある。
「ドル160円という特定の水準にこだわって介入を実施したと市場に意識させれば、162円まで買い進めようという参加者は少なくなる」と、ある外資系銀行の為替ディーラーはみている。6月に入ってからは、160円手前を中心に膠着した相場が続いている。
逆に、今後ドル/円が反転したタイミングで円買い介入が再開されるとの指摘も聞かれる。前述のみなと銀の苅谷氏は日銀の利上げなど、円高に振れるタイミングが介入のきっかけになるかもしれないと話す。みずほ証券の山本雅文チーフ為替ストラテジストも、今晩の米雇用統計が予想を上振れた場合の円安進行抑制だけでなく、下振れてドルが下落した場合でも「時間稼ぎのための追い打ち的な円買い介入が実施される可能性もある」との見方を示す。
<鳴り潜める発言>
ドル/円が前回の介入水準に接近する中、片山さつき財務相や高市早苗首相が為替の円安に「適切な対応」を取ると口をそろえる一方、介入を示唆する「断固たる措置」や介入が差し迫っていることを印象付ける「そろそろ」など、強めのけん制はあまりみられていない。退避勧告を発した三村淳財務官の発言も鳴りを潜めている。
「前回介入時より投機の円売りが膨らんでいるにもかかわらず、政府当局者の発言がワントーン落ちているようにも見えるのには違和感がある。さらに投機筋の円売りをひきつける意図があるのではないか」と、ある国内銀行の為替ディーラーは話す。
米商品先物取引委員会(CFTC)のデータによると、投機筋のポジション動向を映すとされるIMM通貨先物非商業部門の取り組み状況(5月26日時点)で、円の売り建玉は22万7660枚と、2007年6月下旬以来の高水準となった。円買い建玉との差し引きでも円の売り越しは11万枚超と、介入前の4月末から1万枚強増えている。
こうしたポジション動向から「次の退避勧告に向けた新たな局面はもう始まっているようだ」と前述の国内銀ディーラーは話す。介入時には円売り投機が膨らんでいるほど、ポジション解消を伴って相場反転の力が増すとみられている。
先行きの見えない中東情勢など根本的な円安要因が変わらない中、介入によるドル/円下落はドルを安く調達する好機ともなり、ドルの需要が殺到しやすい。みずほ証の山本氏は、再び介入が行われた後にドルが160円を回復するとしても、当局は介入に踏み切るとみる。一方で「155円を下回ってレンジの下限を152円に押し下げるような介入にはならないだろう」と話している。