米国では毎年約5万人が膵臓がんで死亡しており、転移性膵臓がんの5年生存率はわずか3%にとどまる。膵臓腫瘍の90%以上は、RAS遺伝子の代表格である「KRAS」と呼ばれる遺伝子の変異によって増殖する。しかし、このタンパク質はその表面が滑らかな球体であるため、薬剤の分子が結合する足がかりがなく、長年「アンドラッガブル(創薬不可能)」とされてきた。

今回の臨床試験に携わったMDアンダーソンがんセンターのシュブハム・パント博士は、最近の専門誌のインタビューで、KRASを「ピカピカに磨かれたボール」に例え、「何も貼り付けることができず、ただ滑り落ちてしまうようなものだった」と語っている。

ダラキソンラシブは、「RAS(ON)マルチセレクティブ阻害薬」という新たなクラスに属する世界初の薬剤だ。複数のKRAS変異体において活性型タンパク質のスイッチをオフにするだけでなく、明確なRAS変異が検出されない腫瘍にさえ効果を発揮する。そのため、腫瘍の遺伝子プロファイルに関わらず、事実上すべての膵臓がん患者に恩恵をもたらす可能性を秘めている。

カリフォルニア州を拠点とするレボリューション・メディシンズが実施し、医学誌『ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン』に同時に掲載された第3相臨床試験では、過去の治療後に病状が進行した転移性膵管腺がんの患者500人を対象に検証が行われた。

患者は、1日1回ダラキソンラシブ300ミリグラムを経口服用するグループと、医師が選択した標準的な点滴化学療法(抗がん剤治療)を受けるグループにランダムに分けられた。

その結果は、驚くべきものだった。

  • RAS G12変異を持つ患者の全生存期間(中央値): 標準的な化学療法を受けたグループが6.6カ月だったのに対し、ダラキソンラシブを服用したグループは13.2カ月に達した。
  • 無増悪生存期間(がんが進行しない期間): 化学療法の3.5カ月に対し、ダラキソンラシブは7.3カ月だった。
  • 死亡のリスク(ハザード比): 0.40という数値を示し、死亡リスクが60%減少したことを意味する。
  • 副作用による治療中止率: 化学療法では11.2%に上ったのに対し、ダラキソンラシブはわずか1.2%にとどまった。

なお、この研究は製造元であるレボリューション・メディシンズの資金提供によって行われている。

「満塁ホームラン級」の研究
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