Anthony Deutsch

[イジュム(ウクライナ) 31日 ロイター] - ロクソラーナ・マカルさんは、凍結した道路やドローン攻撃の脅威をかいくぐって、ウクライナ東部のイジュムにたどり着いた。ロシア軍の拷問を受けたと語る女性の話を聞くためだ。

森林と農地に囲まれたイジュムには、2022年のロシアによる占領の痕が今も残り、橋は破壊され、建物は倒壊したままだ。この女性(55)はウクライナの非営利団体の戦争犯罪調査員であるマカルさんに対し、22年にロシア兵にバッテリー工場で10日間拘束されたと語った。

女性によると、拘束中に殴打され、電気ショックを与えられ、ガスマスクで窒息させられ、レイプされたという。

「もう耐えられず、殺してほしいと頼んだ」。「アラ」とだけ名乗る女性はそう語った。

マカルさんは、証拠が隠滅され記憶が薄れる前に、こうした証言を記録することを目指している。しかし米国が、自身の所属団体「トゥルース・ハウンズ」や他の数十の団体への資金提供を停止したことで、責任を追及できる加害者が減ることを危惧している。これらの団体は、第2次世界大戦以来、欧州で最も死者の多い紛争において正義の実現を目指している。

ナチス戦犯を裁いたニュルンベルク裁判以来、米国は世界各地の重大な残虐行為に対する責任追及を主導し、調査や裁判機関を支援してきた。しかし、ロイターが政府データの分析と現職および元米政府当局者8人への取材で確認したところ、トランプ米政権は昨年、「米国第一」政策を推進するために対外開発援助を削減した際、この分野への資金を数千万ドル(約数十億円)削減した。関係者によると、ウクライナは単一国として最大の拠出先だった。

マカルさんは1月、イジュムでアラさんへの聞き取りを行った後、責任追及の「望みは薄くなっている」と語った。

ロイターはアラさんの証言を独自に確認することができていない。ロシア政府と同国国防省は、この件や本記事で取り上げた他の具体的事例についての質問に回答しなかった。ロシアは戦争犯罪を繰り返し否定し、こうした非難は西側のプロパガンダだとしている。

ウクライナ検察総長室によると、22年にロシアが全面侵攻を開始して以降、23万件を超える戦争犯罪の捜査が開始された。これには、民間人および民間インフラの標的化、子どもの拉致および移送、拷問、性的暴力の容疑が含まれる。

米国のバイデン前政権で国際刑事司法担当特使を務めたベス・バンシャーク氏は、米国の大幅な支援削減は「多くの被害者が正義を得られなくなる恐れがある」と懸念した。

米国務省は、戦争の財政負担を欧州およびその他の「志あるパートナー」に移しているとしつつ、「戦争犯罪、司法、残虐行為の責任追及」に関するプログラムを含め、依然として相当な支援をウクライナに提供していると述べた。

ロイターは削減の影響を把握するため、ウクライナの戦争犯罪の調査や訴追支援、被害者支援に関わる、米国が支援するネットワークの関係者40人以上に取材した。対象には法執行当局者、法律専門家、人権活動家、研究者が含まれる。ほぼ全員が、取り組みの縮小により調査が妨げられ、正義の実現への期待が弱まっていると述べた。

具体例には、トゥルース・ハウンズが人員削減を余儀なくされ、アーカイブ事業を停止し、裁判官や検察官向けの国際法研修を延期したことが含まれていた。

事情に詳しい5人の関係者によると、過重な負担を抱えるウクライナ検察当局への支援を米国務省が縮小したため、戦場の証拠収集や分析を支援していた外国人専門家数十人は、もはやウクライナに渡航できなくなった。

また、米国際開発局(USAID)に詳しい関係者によると、トランプ政権が同局を解体し、ウクライナの司法制度強化を目的とした6200万ドルのプログラムを打ち切ったため、戦争で破壊された裁判所の再建計画も停止された。

<2億8300万ドル以上を追跡>

ロシアの侵攻により、ウクライナでは残虐行為の容疑者に対する逮捕や裁判を求める需要が急増した。

バイデン政権下で米国の資金提供がピークに達していた時期でも、その負担はウクライナ検察当局の能力を上回っていた。4月1日時点での戦争犯罪の有罪判決は252件にのぼり、検察当局は容疑者1175人を特定し、842人を起訴したとしている。

高位の容疑者は、プーチン露大統領に逮捕状を出したハーグの国際刑事裁判所(ICC)で裁かれる可能性がある。米国や欧州の裁判所でも複数の裁判が進められている。

ロイターは、22年以降、ウクライナの戦争犯罪関連の取り組みに少なくとも相当部分が充てられた米国資金として、2億8300万ドル以上を追跡した。これらは、20人以上の関係者への取材と、公式発表、政府文書、監視機関の報告書の精査による。

トランプ氏が25年1月に対外開発援助の一時停止を命じた時点で、その資金のうちどれだけが支出されていたか、またその後どれだけが復活したかは確認できなかった。しかし、少なくとも全体の40%に相当するプログラムが終了または失効したことが分かった。

この集計は過小である可能性があるものの、ウクライナにおける戦争犯罪の責任追及に関する米国の資金削減についての、これまでで最も包括的な評価となる。

米政府が実際にどれだけの援助を提供しているかを正確に把握することは難しい。関与する米国機関や受け取り手が多数に上るためだ。助成金は複数の組織で共有されたり、数年にまたがったり、他の優先事項への資金を含む場合もある。米国は専門知識や情報の提供も行っている。

ウクライナの高官は、トランプ政権による削減が、戦争犯罪の責任追及や法の支配の強化を目的とした米国資金の事業の約半数に影響を及ぼしていると述べた。

米政府は新たなプログラムを1件開始した。国務省は3月、行方不明となったウクライナの子どもの帰還支援として最大2500万ドルを提供すると発表した。この取り組みはメラニア大統領夫人が推進しているが、受給団体はまだ発表されていない。

この新規助成は、同じ目的を持つ他のプログラムへの資金がカットされた後に行われたものだ。その中には、行方不明となった数千人のウクライナ人の子どもたちをロシアおよびロシア占領地域の施設まで追跡したイエール大学のイニシアチブも含まれる。

イエール大学公衆衛生大学院の人道研究ラボのレイモンド所長は、国務省が約800万ドルの資金提供を停止したため、8月に資金が尽きる見通しだとロイターに語った。

<人権・司法分野での米国の後退>

トゥルース・ハウンズは、14年にロシア軍がウクライナのクリミア半島を掌握して以来、戦争犯罪容疑者の追跡を支援してきた。ロイターは同団体の調査員に同行し、北東部ハルキウ州で3日間にわたり証言収集を行った。

イジュムでは、ロシアのドローン攻撃を防ぐためのネットが道路を覆うように張られ、電力インフラへの攻撃により取材中に停電が発生した。遠方から砲撃音が響いていた。

トゥルース・ハウンズはウクライナ全土で約1万7000件の戦争犯罪疑惑を記録してきたが、23年以降予算の3分の1を占めていた米資金を失ったことで活動は縮小した。

「重要な調査の一部は、全く開始されないままとなるだろう」と共同代表コバル氏は語った。

こうした削減は、人権侵害に関する活動からの米国の広範な後退を示している。

トランプ政権は昨年、97年から大規模残虐行為への国際対応を調整してきた国務省の部局を閉鎖し、ウクライナの戦争犯罪訴追を支援していた司法省のチームを解散させ、ロシア指導部の責任追及を進める多国間グループから米国を離脱させた。

また、ガザでのイスラエル指導者やアフガニスタンにおける米兵の犯罪とされる行為を調査しようとしたとして、ICCの当局者に制裁を科した。米国はICC加盟国ではなく、同裁判所の米国人に対する管轄権を認めていない。

欧州連合(EU)や英国など他の主要支援国は、ウクライナでの正義の実現に引き続き取り組む姿勢を示している。

しかし、失われた米国資金の代替を探すのは容易ではないと、米国、EU、英国が設立した残虐犯罪諮問グループ(ACA)の副責任者ジョーダッシュ氏は指摘する。米国務省の監査によると、米国は昨年、この取り組みの中核3団体のうち2団体への資金提供を停止した。

国務省は詳細を示さずに、ウクライナ検察当局、国家警察、ACAを引き続き支援していると述べた。司法省も戦争犯罪の責任追及への支援にコミットしているとした。

英外務省はコメントを控えた。英国は2月以降、戦争犯罪被害者のための正義支援に500万ポンド(約10億7000万円)、不法に移送された子どもの身元確認や所在追跡を支援するために120万ポンドを追加拠出すると発表した。

EU加盟国は、ロシアの侵略責任を問う特別法廷の設立に1000万ユーロ(約18億5000万円)、補償を確保する国際請求委員会の設立に100万ユーロを拠出している。

5月には、ウクライナの子ども保護体制や拉致された子どものための司法追及に5000万ユーロの資金提供を発表した。

「ロシアは責任を問われることになる」とEU報道官のヒッパー氏は述べた。

<息子を探す母親>

ウクライナで子どもに対する犯罪を担当するウセノコ主任検察官にとって、イエール大学のデジタル調査は「非常に重要」だ。

疑惑の現場の多くはロシア占領地域やロシア国内にあり、ウクライナの捜査当局は立ち入ることができない。イエールの研究者は衛星画像やロシアのソーシャルメディアなど公開情報を用い、子どもたちが連れて行かれた200カ所以上の施設を追跡している。これらは広範な再教育および軍事化ネットワークの一部であるとされ、一部の子どもはロシアで里親に預けられたり養子となったという。

ACAから派遣された戦争犯罪の専門家は、ロシア指導部が込めた意図的な戦略がないか読み解くため、ウクライナが事案を精査するのを支援してきた。

ウセノコ氏は「ロシアの真の意図は、ウクライナの領土の一部を奪うことだけではなく、それ以上に、国家を破壊し、ロシア社会に同化させることにあると示したい」と述べた。

ウクライナ当局は2万0500人以上の子どもが強制移送または移転されたと主張し、帰還したのは2000人強にとどまるとしている。イエールの研究者は約3万5000人に達する可能性があると推計している。

ロシアは子どもの拉致を否定し、安全確保のための避難だとしている。

ロシアのペスコフ報道官はロイターに対し、25年6月にウクライナ政府がロシア政府に対し、ロシアに渡ったとする子ども339人のリストを提供したと述べた。ウクライナ当局は、このリストは行方不明となっているすべての子どもの帰還に向けた交渉の出発点だとしている。

前線の村で活動するエミール財団などの支援団体は、子どもを家族と再会させるため、イエール大学の調査結果を活用してきた。

「それがなければ、何年にもわたる後退になる」と、同財団の共同設立者マリアム・ランベールさんは述べた。

ハンナ・ザミシュリャイエワさんは、息子のアントンさんと22年1月14日を最後に会っていない。全寮制の学校を訪問したときだった。アントンさんは当時19歳で、神経疾患のため常時介護が必要だった。彼女はロイターの記者に対し、車いすに座りフクロウのぬいぐるみを抱えた息子の写真を見せた。

その翌月にロシア軍が南部ヘルソン州のオレシュキーを占領し、生徒らは占領地域の奥へ移され、連絡が途絶えた。ランベールさんによると、占領前にオレシュキーにいた生徒87人のうち、帰還したのは13人にとどまる。財団は3月、アントンさんの所在に関する情報提供を受けたが、ロシア側の確認は得られていない。

ザミシュリャイエワさんは、学校で受けていたような手厚いケアを受けられない中で息子がこの数年間生き延びているのかどうかという耐え難い不確実さに、日々向き合っている。

「ただ抱きしめたい」と彼女は語った。

<「全員に責任を取らせる」>

タチアナ・ポポビチさんも正義を求める1人だ。

当時29歳だった息子は戦争初期にキーウ近郊ブチャで行方不明となった。ポポビチさんは、近隣住民や帰還した捕虜の協力を得て、息子の足取りをたどった。

ある目撃者は、民間人だったウラディスラフさんが砲撃の最中、クルミ畑に身を潜めていたと証言した。ロシア軍に拘束され殴打される前に、息子の銃創に包帯を巻いたという証言もあった。

最終的に、解放された捕虜の1人が、ロシア西部の町ビャジマの拘束施設で同じ収容房にいたと伝えた。ポポビチさんは、息子が今もそこにいると信じている。

「何年たっても、全員を見つけ、全員に責任を取らせることが重要だ。私は最後まで闘い続ける」

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