Yusuke Ogawa

[東京 28日 ロイター] - 防衛テック企業に、優秀な若手人材が相次いで流入している。AI開発を手がけるサカナAIが先月開いた「防衛・インテリジェンス」部門の採用説明会には、30人の定員を大幅に上回る応募があった。台湾有事や米中対立などの地政学リスクを、自らの問題として捉える若者が増えているようだ。

これまで急成長を続けてきたSaaS(業務用ソフトウェア)業界に逆風が吹く中、日本の防衛費の増額基調が鮮明になっていることもあり、防衛テックはAIエンジニアや研究者らにとって新たなキャリアの選択肢になりつつある。

<設立1年でユニコーンに>

4月15日夜、東京都内で開かれたサカナAIの採用説明会。会場では、20-30代を中心とした学生や社会人から「防衛分野でどのように事業を大きくしていくのか」「防衛省に向けた開発を進めていくのか」といった真剣な質問が相次いだ。

同社は2023年、米グーグル出身のライオン・ジョーンズ氏とデビッド・ハ氏、外務省出身の伊藤錬氏が都内で創業。会社設立から約1年でユニコーン(企業価値10億ドル以上の未上場企業)となり、足元の企業価値は4000億円規模に達するとされる。

昨年の秋ごろ、社内に防衛・インテリジェンス部門を設け、自衛隊での活用を想定した情報分析システムの研究開発に着手した。目指すのは、指揮官の意思決定を支援するAIエージェントだ。

携帯端末や無人機(ドローン)で撮影した敵の映像をはじめ、前線における膨大な情報を自動的に統合・分析し、素早く司令部に伝えることを想定する。

今年4月に入社した加藤昭氏(仮名、28)は大学院でAIの基盤となるアルゴリズムの研究に取り組んだ後、外資系クラウド企業に勤務していたが、「自分の仕事は本当に日本社会を本質的に良くしているのか、という疑問が拭えなかった」と振り返る。「もっと直接的に、この国のために汗をかきたい」と考え、同部門に加わった。

大手コンサルティング会社を経て、昨年10月に入社した沢田恭兵氏(35)も、防衛分野への強い思いを抱く一人だ。新卒で入った重工メーカーでは、戦闘機やロケットの空力解析を担当した。「自社製品に日本の国旗が入っているのが誇らしかった。その感覚を思い出し、もう一度防衛産業に携わりたいと思った」と語る。

<SNS世代、認知戦を身近に>

若者が防衛テックに注目する背景には、身近な情報空間の変化も関係している。AI開発企業のプリファードネットワークスを経て25年夏に入社した防衛部門長の佐藤元紀氏(33)は、「SNSの影響が大きい」と見る。

「国際的な認知戦は空想の話ではなく、インターネット上で現実に起きている。SNSを日常的に使う世代は、偽情報や意図的な情報操作に日々さらされており、安全保障問題をよりリアルに感じている」

またイラン紛争における米軍事作戦では、攻撃目標の選定をはじめAIの実戦投入が本格化している。佐藤氏は「パランティア・テクノロジーズなどの米テック企業が存在感を高めるのを見て、ソフトウェアを活用した防衛を日本でも国産で構築しなければならないという使命感を持つ若者が増えている」と話した。

中国による台湾有事の懸念も、防衛産業への関心を高めているようだ。若い世代ほど「自分が生きている間に有事が起きるかもしれない」と切実に受け止める傾向があるとの見方もある。

<広がる新規参入余地>

スウェーデンのストックホルム国際平和研究所(SIPRI)によると、25年の世界の軍事費は前年比2.9%増の2兆8870億ドルとなり、過去最大を更新した。ロシアによるウクライナ侵攻が始まった22年以降、各国の支出拡大に拍車がかかっており、日本でも防衛費の大幅な積み増しが続く。

防衛費の増加分は、従来の装備品だけでなく、AIやドローン、サイバー、宇宙といった先端領域にも向かう。こうした分野では、デジタル技術に強みを持つ新興企業が入り込む余地が大きい。

スタートアップ業界に詳しいEY新日本監査法人・企業成長サポートセンターの善方正義氏は「これまで防衛産業は(一部の大手企業を中心とする)閉ざされた領域だった」と指摘した上で、イノベーションを取り込むためには「分散型の産業構造への移行が必要だ」と述べた。

政府も、中小企業技術革新制度(日本版SBIR)などを活用し、防衛分野のスタートアップの育成支援を強化する方針だ。

こうした中、米防衛テックのアンドゥリル・インダストリーズが昨年12月に日本法人の設立を発表。米ベンチャーキャピタル(VC)大手のアンドリーセン・ホロウィッツも防衛分野の投資先の事業拡大をにらんで今夏に都内に拠点を開設する予定で、今後は海外勢を含めた新規参入の動きが一段と広がりそうだ。

(小川悠介 編集:橋本浩)

Reuters Copyright (C) 2026 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。